アマゾン流域は広大な熱帯雨林で、インディオたちが多く暮らす。そのアマゾンのほとりに開けたマナウスを以前からたずねてみたいと思っていた。一つにはテアトロ・アマゾナスを見る目的で、そして今一つの目的はアマゾンの淡水魚を食べるためであった。
 世界中の魚介類が「成田漁港」に一堂に会する日本の市場にほとんど運ばれてこない魚がある。それは水族館では見ることができるが、家庭の食卓にも鮨屋のカウンターにも上ることはまずないだろう。いかなるグルメも釣りキチもアマゾンの淡水魚とは縁が薄いはずである。水族館に行き、水槽の中を泳ぐ世界最大の淡水魚ピラルクを眺めながら、いつかアマゾンに行き、それを賞味したいとの思いを募らせていた。

 アマゾン料理のレストランでペイシャーダと呼ばれる魚のスープを勧められた。ぶつ切りにされたタンバキというスズキに似た淡白な白身魚のアラがタマネギやトマト、香草などと一緒に煮込まれていて、あっさりと塩味がついている。皿にライスやマンジョカイモのでんぷんから作ったクスクスのような粉を入れ、スープを注ぎ、ライムやピメントと呼ばれる唐辛子ビネガーをかけて、食べる。ほとんど魚のちり鍋を雑炊に仕立てたような味だった。アマゾンにはタカカと呼ばれる見た目味噌汁そっくりのスープもある。インディオたちが淡白好みだからか、アマゾンの料理は、日本人の味覚に合う。
 さて、メインにはお目当てのピラルクが出てきた。切り身に衣を着けて両面を焼いた状態で出てきた。その身はやはり白く、黒むつを思わせる舌触りで、けっこう脂がのっていた。ジャングルの奥地の村では、浅瀬でピラルクを飼っているところもあるという。ひとなつこく、川に住む犬のようだと現地の人はいう。鯉も長年飼っていると、なつくというから、その話は信じていいだろう。何しろ、ナマケモノやニシキヘビをペットにする人もいる土地だから。


絵=さかなクン

島田雅彦◎作家。1961年生まれ。「詩のボクシング」でサンプラザ中野氏と戦いチャンピオンを防衛する
さかなクン◎テレビ東京『TVチャンピオン』全国魚通選手権5連覇達成

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