東京から空路で2時間、空港に降り立つと、11月の中旬とは思えぬやさしい風がふわっと迎えてくれます。気温20度、南の島の瑞々しい自然が溢れる奄美大島。車に乗り込んで流れる景色を眺めていると、すぐに巻き貝のようなフォルムの建物が突如視界に現れる。開園したばかりの宮崎緑さんが館長を務める「奄美パーク」です。ここには「田中一村記念美術館」があります。サトウキビが生い茂る南国風の木々を眺めながら、海岸沿いに進むこと小1時間。島で一番の市街地、名瀬市に到着します。ここは、人口約4万4000人の港町。街の醸し出す空気はどこか儚げです。
 島の名産物は、なんといっても黒糖焼酎と鶏飯(けいはん)、そしてハブ。地元には「ハブ観光センター」というところがあって、小学校の教室を彷彿させる部屋のなかで、語り手の話を聞きながら、ハブ対マングースの決闘が見学できます。勝負は一瞬で決着、マングースの完勝です。

 翌日朝5時、暗いうちから名瀬魚市場を覗くと、本土では珍しい亜熱帯の赤、青、黄色といった原色の魚が、奇麗に頭の向きを揃えて並べられています。ソデイカという体長が1mもある大きなイカの姿もあります。そして市場の親切なおじさんが、カツオのヅケをご馳走してくれる。もちもちとした食感がとても美味しい。
 名瀬市から約47kmの南西に、リアス式海岸の焼内湾を囲む集落、宇検村があります。波の凪いだ焼内湾の深い入り江の一角で、大変難しいといわれてきたクロマグロの蓄養をしている、マグロ資源研究所株式会社(JMK)の海洋ファームを訪ねるのが今回の目的です。現地で働く十数名程のスタッフの殆どは本土の人々。みんなこんがり小麦色に日焼けしているとっても若い活発なスタッフたち。働きぶりもテキパキと無駄が無く、女性たちも生き生きと取り組んでいます。







 研究所前から船に乗り込み、海に迫る山並みを眺めること20分ほどで、サッカー場がスッポリ入るくらいの大きさの海洋ファーム、巨大なクロマグロの生け簀にたどり着きます。それぞれの生け簀には、年齢別のクロマグロたちが悠然と泳ぎ回っています。小舟に乗り換えて、クロマグロの餌やりに同行すると、餌を与える船が生け簀に入るだけでクロマグロの群は、船の周りを時計と反対方向ににグルグル回り始めます。陽光が降り注ぐと、レモンイエローの背鰭が光り輝き、高速で泳ぐその姿はまるで、イルカのようにも見えます。クロマグロの食べる餌は、人間の食べるイカ、鯖といったものと、特別に作られた練り餌を使用します。練り餌は、中島水産の協力で、ポリフェノールなどが含まれた独特のものです。美味しくて栄養のある餌のおかげで、うま味がたっぷり、ミートカラーもほのかなピンクに仕上がり、天然ものに負けないマグロが誕生するのです。水深は80mと深く、運動量が豊富でストレスもたまりにくく、クロマグロにとって理想的な環境といえます。
 JMKでは1本ずつ餌をつけた竿で釣り上げます。2年もののクロマグロのは体長約1m、体重27〜28Kg、1本釣りあげることも大変な力技で、見ているとその迫力に圧倒されます。釣り上げられたクロマグロは、すぐに血抜きし、神経と鰓綿を取り除いてクーラーボックスに入れられます。みるみるうちに10本をつり上げました。3年もののクロマグロともなると、体長は1.5メートルほどあり、体重も50〜60kg。大人の人間と同じくらいの大きさ。生け簀の中には多数のクロマグロがいますが、リーダーは1匹。そのリーダーの牽引によって、群は一丸となった動きをします。とても頭がよく、投げ込まれた餌と、釣り針の刺さった餌とを瞬時に見分けるのですから、釣り上げるのにも一苦労。まったく野生化した自然の状態に成長しているのです。魚を食べるとDHAが多く含まれていて頭がよくなるといわれていますが、クロマグロのかしこい行動と、大きな頭を見ていると、本当に納得してしまいます。

 今年の奄美の蓄養クロマグロは、今までにない程の過去最高とも云える素晴らしい出来映えです。艶のある深い青色に凛々しい顔立ち、立派な背鰭、ミートカラーも大変美しく、口の中でうま味が広がる優しい美味しさです。これこそ奄美大島の温暖な気候と恵まれた地形、若いスタッフ達の愛情で育てられた海の宝物といえるでしょう。マグロを冷凍することなく、鮮度のいい状態で安定供給するために、中島水産はJMKとの協力で、美味しいクロマグロを食卓まで直行させることに成功しました。






 text=市村亜紀子 photo=菊池陽一郎

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