イカで思い出すのは、シアトルの友人を訪ねたとき、泊めてもらったコンドミニアムの前の海でイカ釣りをしたことだ。目の前にはエリオット湾が広がっていた。
 イカ釣りは中国人が多く、そのおこぼれのライトの近くで釣り糸を垂れたのだが、面白いように釣れた。釣ったイカはすぐに部屋へ持ち帰り刺身で食べた。美味しかった。ちなみにエリオット湾で釣ったのは、ぼくの好きなヤリイカだった。
 イカは、さまざまな料理に使えることでも貴重な魚類だ。ぼくは、塩辛はいつも自分で作っているが、これはスルメイカがいい。特に冬場のイカはワタがたっぷりしているのがうれしい。北陸地方が本場だとおもうが、塩を振って、ワタ付きのまま干したイカも日本酒(暖かい御飯にも合うが)にはとても合う。京都ではこうして作ったイカをゴロイカと呼んでいる。
 イカの本場とされている佐賀県の呼子でもイカを食べたが、さすがに美味しかった。灯をつけ、夜の水平線に並ぶイカ船の景色も抒情的で好きだ。

安西水丸◎イラストレーター、作家。1942年生まれ、日大芸術学部美術学科卒。電通、ADAC(NY)、平凡社を経てフリーに。著書に「4番目の美学」「メロンが食べたい」等多数。村上春樹との共著も多い。4月、NHKのBS「世界わが心の旅」でフォークアートを訪ね、アメリカの南部を旅して歩く。

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