鮎は夏の匂いがする。
清流の珪藻を食べて育つので、緑の匂いがDNAに組み込まれているのだろうか。
ここ和歌山市川辺を流れる紀ノ川は、日本有数の鮎の養魚場。
和泉山脈からの伏流水をたっぷりと利用して、人気の鮎は育ちます。


和歌山・紀ノ川の鮎

 関西空港から車で1時間弱、紀伊半島の西南に位置する和歌山市川辺。この地に、鮎を養殖している酒井水産があります。美しく連なる和泉山脈の麓にあり、山から流れ出てきたわき水と、地下20m〜50mもの深さにある紀ノ川の地下水が合流するという恵まれた環境の中で、鮎たちは大切に、大切に育てられているのです。
 養殖場に1歩足を踏み入れると、そこには16個もの縦横10m四方の大きさの生け簀があり、その中には約3万匹の鮎たちが元気よく泳いでいます。生け簀の中には水車が仕込まれており、鮎たちは、勢いよく流れに逆らって泳ぎ回ります。
 最も良いとされている鮎の特徴としては、1.エラのうしろの部分が肉厚で追星と呼ばれる波紋が鮮やかなクリーム色に色づいていること、2.下ヒレやお腹のしたにうすい黄色い色味がかかっていること、3.顔つきは面長で唇がしっかりと大きいこと、という要素があげられます。この酒井水産で育った鮎たちのその仕上がり具合は、パーフェクトでまるで天然ものの鮎のようです。



 餌の量は、魚体重の2.5%の量を与え、主成分の他に植物性である大豆油由来のビタミンEや各種ビタミンを添加し健康的に育成されています。中島水産と飼料会社との共同で開発した斬新でヘルシーな飼料を使用することで、魚を元気にし、栄養バランスも充分整い、鮎たちは美味しくすくすく育つのです。
 養殖していくプロセスは、秋に、琵琶湖から天然稚魚を買い付け、大きさごとに選別作業を行います。5月に入ると出荷作業がスタートし、養殖現場は活気づきます。
一番神経を使う仕事は水揚げです。鮎は空気に触れると色が変わってしまうデリケートな魚なので、11℃に生け簀の温度を保ち、すぐに氷水のケースに鮎を移します。これにより、鮎の身が引き締まり、歯ごたえが良い仕上がりとなるのです。その後、再度大きさごとに選別し20×40cm台の木箱に美しく並べ、氷を真っ平らに敷き詰め梱包します。この仕事ひとつひとつが迅速かつ丁寧で、スタッフ達の心意気が伝わってくる程。

左右対称にキレイに並べていきます

勢い良く泳ぎ回る鮎

箱詰め作業は迅速かつ丁寧

選別された鮎

清らかな水が鮎の源

ふと、養殖場の裏にある紀ノ川を覗いてみると、そこには天然の大きな鯉が泳いでいます。産卵のためにこの地にやってくるという。改めて、この透き通った水の美しさを再認識します。鱗も肌理がこまかくて、ツルンとしている鮎たちのルーツはなんといっても清らかな水。まさに鮎の命といえるでしょう。鮎の成長のプロセスを追っていくと、和歌山県の貴重な資源の水と、自然と共に生きようとする愛情たっぷりの人の手の温かさに出会います。育て、養い、共に生きる。
 今年の夏は、是非、和歌山の鮎を召し上がってみて下さい。鮎の甘い香りに優しい気持ちになれますよ。





鮎の塩焼き(右)パリッとした皮と塩が絶妙


鮎のお寿司(左)甘く優しい旨味に舌が包まれてしまいます
 text=編集部 photo=荒川健一

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