大学時代の親友、高木さんは福岡の人。地元の魚介の話は、本当においしそうでした。ある時居酒屋で出てきたイカ刺しをありたがっている私を「イカ刺しなんか福岡じゃ、刺身のツマだね」とイヤな感じでせせら笑うのです。
いばっている高木さんを何とか凹ませたい。そこで、魚ヒエラルキーの頂点、鯛を出してみた。「でも、鯛はいつも食べられるわけではないでしょ?」それに対し、「いいや、食べてる。町営の魚食べ処で、ドライブがてらに何気なく」ですって。
 <町営><魚食べ処>という、全くもってデイリー感溢れる言葉と鯛。これはどうなっているんでしょう。じゃあ連れて行ってもらいましょう!
 金印出土で知られる志賀島の、海の中道という砂 州になっている景色の良いところを走り目的地につきました。

やまだうたこ◎1963年生まれ。イギリス文化と紅茶への興味から1987年「カレルチャペック紅茶店」を開業。商品企画デザイン全般を手がける一方、イラストレーター、絵本作家としても活躍。「おいしい紅茶のある暮らし」(メディアファクトリー)、「紅茶好きのメニューブック」(文化出版局)他紅茶とお菓子の楽しみ方を提案する著書多数。
 <魚食べ処>というのは高木さんちの呼び名で実際は 〜センター だった記憶がありますが、とにかく座敷へ。ほどなくして鯛の姿造りが出てきました。そしてイカが!イカ刺しが鯛のまわりを、鯛にお仕えするのが楽しいといった風情でどっさり囲んでいる。
あぁ本当だった、よかとこ九州…。などとぼさっとしていましたが、テキパキ食べ進む友人らに目を覚まさせられ参加。ちょっと甘めのごま醤油で食べるのもおいしかったなぁ。
 食べ終わった鯛は、汁になって再登場するため一旦下げられました。
 その間に出た新鮮な鯛の話はこれ。
 高木さんの母上が、地元議員の集まりで鯛の活け造りが出た時、スピーチがつまらなくて、鯛の口の中に指を出し入れして遊んでいた。その時、鯛が急にパチンと口を閉じて指をかまれちゃった!鋭い歯はたいそう痛く、指を抜こうと手を振ったら…ブーン!指をはさんだまま鯛はおおきく放射線を描き、周囲に飛び散るお造りよ…。鯛は魚の王者。そして、リラックスして自らその鯛を語る、高木さんちの母上も実に眩しくかっこよくまた王者なり。

illustration=Yamada Utako
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