夕飯の買い物で、魚売り場へさしかかったところ「朝どり」の文字が。「九州、福岡市場直送、朝どり品」。
 九州で今朝獲った魚が、この時間にもう東京、吉祥寺の店先に? 飛行機とトラックとをリレーすれば、不可能ではないかもしれないが、それにしてもすごい離れ技。
 中に、ぎょろ目のカサゴが一尾。いかつい顔の魚って、おいしいんだよね。煮付けにしたらさぞやと、思ったときはもう、店員さんに頼んでいた。「カサゴを煮付け用にお願いします」。
 不精者の私は、エラ、ワタを出してもらう。調理いたします、の張り紙に乗じて。
 さて、家の台所で、再びカサゴとご対面。料理雑誌に載っていた方法では、煮る前に下処理をする。まず塩をふり、臭みを吸い取らせることになっている。いつものごとく、切れめから腹の中にもすり込もうとすると、固い!指が入りにくいくらい。
 思い出した。前に、釣りをする人たちについて、川へ行ったとき。ヤマメを一匹だけ、宿で焼いて食べようと、石でこつんと頭を打ち、蕗(ふき)の葉に包んで、持ち帰る。宿に着いて、串に刺そうとすれば、こっちこち。それと同じ。死後硬直をしているのだ。
 獲って間もない魚って、固いんですね。やわらかくなるのは、時間が経ってからなんですね。
 それほど新鮮な、朝どりカサゴ。料理雑誌によれば、塩を水で洗い流した後、さらに熱湯をかけ、臭みを抜くのだが、その必要もない気がして、省略。出来た煮付けは、臭みなどまったくなく、おいしさに目が飛び出そう……それは、カサゴの顔でした。私の顔は、ほとんどカサゴになっていました。
 カサゴがこんなに、上品な白身魚ってこと、はじめて知った。カサゴに対するイメージ、変わった。
 これからも、朝どりマークに注目です。


きしもとようこ◎エッセイスト。1961年鎌倉市生。会社勤務、中国北京留学を経て、執筆活動に。日常生活や旅を題材にしたエッセイを数多く発表。著書『刺激的生活』(潮出版社)『からだに悪い?』(中央公論新社)『ほどほどがだいじ がんから五年』(文藝春秋)など。
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