剣先イカは、素材自体がとてもいいものです。ですから、全レシピを通して伝えたいことは、火を入れすぎず、味付けも濃くせず、イカの甘みを活かした料理に仕上げてほしいということです。また、肝もゲソも余すところなく使い切って、イカ一杯まるごとで楽しんでいただけたらと思っています。もちろん和食なら、イカを知り尽くしている漁師さんにはかないません。でも私は、自分の役割は素材の良さを活かした料理で、生産者と消費者を結ぶことだと思っているので、私というフィルターを通して、どういった美味しい料理を伝えられるかを考え、スローフードの国、イタリアの料理で提案することにしました。しかも、イタリアンと和食はそんなにかけ離れたものではないんです。イタリアンでもお米はよく使いますし、逆に今回はお酢の代わりにビネガーを使ったりしました。
個々の作り方のアドバイスとしては、サラダに関していうと、魚介は一度炒めたら冷やすことをオススメします。味がしっかりしみ入ります。また魚介を炒める時、面倒でも貝だけイカだけと別々にして、炒め具合を素材に合わせてあげた方が、それぞれの味が引き出せます。イカを炒める時、セロリを一緒に入れると、元々イカに臭味はさほどないですが、臭味取りと香り付けになります。セロリも火を通すと甘みが出てくるので、イカの甘みと合うんです。イカ墨のパスタでは、彩りに、枝豆を散らしていますが、本来のイタリア料理では空豆が多く使われます。でも、ここはわれわれに馴染みの深い食材で、酒の肴としてだけでなく、食事にも活躍させたいと考えました。
料理の幅はちょっとしたアイデアや手間で広がります。イカは本当に残すところがありませんから、ぜひ一杯まるごとで買ってきて、作ってみてほしいです。