鱧は魚へんに豊と書きますが、食すれば納得。その字の通り、美味しく心が豊かになる気がします。実際の鱧はとても獰猛で、漁師さんでさえも、鍵針のような鋭く尖った歯と強いアゴで咬まれるということがあるようです。そんなときは傷口を広げないためじっと我慢。そのような特徴から、「咬む」「食む(はむ)」がなまって「ハモ」と呼ばれたとか。いまでは、鱧は京都の祇園祭や大阪の天神祭りでは欠かすことのできない夏の食材となっていますが、特に京都で鱧が珍重されたのは「京都の鱧は山で漁れる」と言われるように、生命力が強く、京都まで生きたまま輸送可能だったからと言われています。
 

 夏の食を涼やかに飾る鱧を求め、山口県宇部市へ。宇部には約60隻の漁師さんがいるそうですが、鱧専門船はありません。そのうちの約10隻が鱧漁に取り組みます。今回同行させてもらった山京丸もそのひとつ。

 鱧は5月中旬から9月末ごろまでが漁期。梅雨時がピークと言われます。シーズン中は海がしけない限りほぼ毎日出航。鱧は夜行性なので夕方に出発し夜中に漁を行います。漁場は港から1時間ぐらいの沖合。宇部では底引き網漁で獲ります。
 漁場に到着したら網を下ろし、船を引きます。様子を見ながら網を引き上げ、魚を揚げます。この作業を約10回繰り返し、朝の4〜5時に港に戻ってきます。底引き網なので鱧のみならず、たくさんの魚種がかかります。
 しかし、宇部で鱧漁が盛んになり始めたのは3〜4年前のこと。鱧は雑食なので、鰯をはじめいろんなものを食べますが、ここはそのエサが豊富なため、鱧が多く獲れるようになったようです。カニ、イカ、スズキ、チヌ、タイ、イイダコ、シャコ、エビと年間を通していろいろ獲れる豊かな漁場です。


漁場に到着したら、網を静かに下ろして行きます(上)。 竹の棒は網の縁についていて、これのおかげで網の口を大きく開くことができます(下)。

船を引いて数十分。手応えを感じたところで揚げます。 「あっ、鱧がかかってる。」

魚の仕分け。不必要なものは海に返します。鱧の獰猛さを垣間見ました。

宇部の海は魚種が豊富。鱧以外の魚も多く揚がります。魚は船内の水槽に移されます。

今回お世話になった若吉水産の渡邉伸二さん(左)と山京丸の渡辺誠さん(右)。20年ぶりに船に乗ったという渡邉さんですが、「体が覚えてるんだなあ」と。渡辺さんは40年の大ベテラン。いつもはひとりで漁に向かうそうです。
獰猛な鱧なので、素手でつかもうとするとするどい歯でがぶりとやられることも。そのための専用のはさみだそうです。

 朝5時、港ではセリが始まります。中島水産用の鱧は、約500g級の、骨もまだ軟らかく一番美味と言われるサイズのみを使用。ヤマモ水産で加工し、届けられています。製品は、骨切りフィレ、湯引き、炙りの3種類が出荷されます。
左から、骨切りしただけの鱧のフィレ、フィレを細かくし沸騰したお湯にくぐらせた湯引き鱧、湯引きしたものをバーナーで表面を軽く炙った鱧、この3種類が中島水産の店頭に並びます。
【活〆鱧を手作業でさばく】
1. 頭をおさえ、腹側から包丁を入れ、内臓を取り除きます。

2. 内部をよく洗います。

3. 再び頭をおさえ開き、尾をおさえ中骨を落とします。

4. 背びれから包丁を入れ、背骨を抜きます。ここが熟練者の腕の見せどころ。鱧の骨は特殊なので、誰も彼もが簡単にできるわけではありません。ピーク時は1日1tをさばくそうです!



【骨切り専用機械に通す】
鱧の骨切り専用の機械。皮をぎりぎり残し、人間の技ではほぼ不可能な薄さで骨切りされていきます。この機械のおかげで出荷数も希望に応えられるようになったとか。

撮影=菊池陽一郎
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