生春巻でも、ドリアでも、赤と白のエビの華やかな色が視界に入ると、テンションが上がります。エビが入ったとたん、お皿がハレの場になる……そんなヒロイン体質のエビが大好きで、本名がエミというのもあって、勝手に親近感を抱いておりました。もちろん、弾力がある触感や、匂いたつ海鮮フェロモンなど、味においても充分魅力的です。
 そんなエビを最近、二年ほど飼育していたことがありました。NASAが開発したエビ入りの水槽を誕生日プレゼントでもらったのです。水槽には水と藻とエビが入っていてスペースコロニー的な生態系ができあがっているので光を当てれば餌をやらなくて良い、という便利なものでした。植物をすぐ枯らしてしまう自分には向いてそうでした。
 エビは数ミリほどの小ささでしたが、通常サイズのエビをそのまま縮小したようなミニチュア感が可愛くて、思わず目を細めて見入ってしまいます。最初は2匹いたはずなのに、気づいたら1匹になってしまっていましたが、残った1匹はパートナーの死に落ち込むことなく、悠々と水槽内を泳いでいて安心しました。その1匹をエビータと名付け、可愛がっていました(といっても眺めるだけですが……)。エビータは時折、小さな体で命をかけて脱皮をしていて、数日間動かなくなった後、本体と全く同じ透明の抜け殻を脱ぎ捨てていました。1ミリくらい微妙に大きくなった姿には目頭が熱くなったものです。最初抜け殻を見た時は驚いて、死んだエビの霊体かと思いましたが……。
 しかしそんなエビータも、寒い冬をすぎた頃から動きがにぶくなり、血の気が引いて白っぽくなってフラフラと泳ぐ姿が目撃されるようになりました。次第にほとんど動かなくなり、水槽から外の世界をじっと眺めているだけになりました。そして2月下旬、水槽の中で横たわったままぐったりと動かなくなって、ついに天に召されてしまいました。
 今まで、桜エビから伊勢エビまで、何も考えずに食べていたのですが、エビータの死を看取ることで、一匹一匹が命だったことに改めて気づかされ、エビのグループソウルへの感謝の念がこみ上げました。エビータは、極小サイズのエビとしての生命をまっとうしましたが、小さな体を脱ぎ捨てて、来世はもっと大きいエビに生まれ変わっていることでしょう。いつかオマールエビに生まれ変わったエビータと高級レストランで再会したいです。飼っていた時は、実際に撫でたりできませんでしたが、次回はぜひ、口の中で思う存分かわいがって、舌で愛でてあげたいです。
しんさんなめこ◎1974年東京都生まれ。漫画家、コラムニスト。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。池松江美名義で、小説執筆やアート作品制作などもおこなっている。著書に『開運するためならなんだってします!』(講談社+α文庫)、『女子高育ち』(ちくまプリマー新書)などがある。新刊は『サバイバル女道』(サイゾー)。
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