新上五島町ってどこ?
東京からは羽田空港→長崎空港まで飛び、リムジンバス(約40分)で長崎港へ。長崎港からは奈良尾港行きのジェットフォイルで1時間15分、フェリーでは2時間40分でアクセスできます。
長崎県南松浦郡新上五島町若松郷。ここに所在する橋口水産はマグロやブリ、ハマチなど、魚類養殖業ではプロ中のプロ。現社長の橋口直正さんは2代目ですが、先代の頃からマハタ養殖にも取り組んでいました。けれども育てるのにはとてもデリケートな魚、なかなか本格的には至らなかったそうです。ところが近年長崎県がマハタ養殖事業に乗り出し、橋口水産は主要協力者として、安定供給に努めています。

▲ 新上五島町は中通島と若松島から成っており、橋口水産は若松島側の若松港付近に位置します。海面いけすは若松瀬戸の湾内にいくつかありますが、そのうちのひとつがマハタのいけすになっています。

▲ 龍観山よりいけすを見る
マハタは西日本一帯に生息し、天然の漁獲量がきわめて少ない白身の魚です。深海魚的に海底近くの岩陰にじっとしているタイプで、回遊しません。しかし、夏の暑さには非常に弱く、水温が高くなると(水温25℃以上)お腹を上にしてひっくり返り浮いてくるとか。そこで橋口水産では、夏場は餌止めをし(餌を与えると、かえってその状態がひどくなる)、遮光ネットをかけたりして、少しでもマハタの負担を軽減させるようにしています。逆に、水温が低いと成長が芳しくなく、大きくならないとか。視覚的な特徴は、縞模様ですが、大きくなるにつれて薄くなり、単色になっていきます。表面はかなりヌメヌメ。食べるには3〜4年ものが一番よく、大きければ大きいほど美味しいそうです。
■海水シャーベット
主として船上で活〆にして、特製の海水シャーベットに入れて出荷。出荷の時期のみその水槽を船に搭載します。この海水シャーベットは橋口水産のウリ! 鮮度保持のためには氷がつきものですが、ただの氷に比べて、シャーベット状だと接触面が多くなり魚全体を覆えるため、均一に冷却が可能だとか。魚の表面を傷つけることも少なく、限りなく理想的な鮮度保持ができるわけです。
■えさ
冷凍の鯖ブロックをミキサーでつぶして、栄養剤とビタミン剤を混ぜて、ペレット状(小塊)に圧縮したものを1日1回、与えます。
準備が整ったら船で海面いけすの養殖場へ向かいます。
 
9時AMに港を出航。いけすは、船で15分ほど沖に向かったところにあります。海流の強いところから少し湾の内側に入ったところに位置しているので、穏やかながら清流のごとく透明度の高い水域。もちろん船上から裸眼でマハタの泳ぐ姿を確認できます。また赤潮の影響を受けないので、本当に最高の環境と言えます。
 
普段は深い岩陰でじっとしているマハタですが、餌のときは水面下まで上昇し、飛び跳ねて餌をキャッチ。
出荷予定のマハタは、餌巻き時間帯に捕獲されます。少量出荷の場合は、ひとつひとつ、良さそうなサイズのマハタを選びながら、タモですくいます。大量出荷の場合は網を投入し、一気に引き上げます。ところが非常にデリケートな性格で、網が投入された後、1週間は餌を食べなくなるそうで、できる限り大量出荷はしないようにしているそうです。
 
タモですくわれたマハタは透明の水槽に入れられ、ボディチェックされます。ごく稀ですが、仔魚から人工で育てられているので、ときどき、不自然な姿の魚が育ってしまうのだそうです。
「この海水シャーベットはすごいんですよ。このおかげで鮮度のいいマハタが届けられるんです」と社長の橋口直正さん(左から2番目)。0℃では凍らない海水をシャーベットにする機械で、まだ長崎県でもこの装置を導入しているところは少ないそうです。さらに橋口水産のこだわりは、魚によって温度を変えること。つまり魚に合った最高の状態で届けているのです。強い企業努力が伝わります。

撮影=菊池陽一郎
Copyright (C) 2011 NAKAJIMASUISAN Co., Ltd.