昨今ではなじみある 「ファッションチェック」という言葉の生みの親、石原裕子さん。
彼女が育った石原家では誕生日、クリスマス、お正月と記念日には石鯛を食べるのが習わしになっていたとか。
お父様との思い出深いおさかなの話から、いつのまにかファッションの話題に!?
父は鹿児島の海辺の育ちで、見よう見まねか魚をおろすのが上手で、石鯛は必ず父が三枚におろして食べさせてくれました。父が造る石鯛のお刺身は独特で鱗は決して落としません。石鯛の鱗って細かくてスパンコールみたいですごくキレイなんです。余談になりますが、かつてミラノのFERREでツイードの上に透明の2ミリぐらいのパイエット(スパンコール)を散らしたジャケットがあって、すごく素敵で買いたかったのですが、そんな高いものをって夫に諭されて買わなかったことがありました。今でも悔やまれるのですが、それと同じような鱗がびっしりついているんですね。ですから石鯛を見るたびにそのことを思い出したりして(笑)。ところで三枚におろした皮つきの石鯛は金串をハの字型に刺して手で持って、庭で新聞紙を丸め、その上に枯れた松葉をのせて火をつけて、皮面をかなり黒くなるまで炙るんです。そのパイエットみたいな鱗を焼くのですが、身は火が通り過ぎないようほんの少し炙ります。その後氷水で一挙に冷やして焦げた鱗を落とします。そうすると薫製状態というか磯臭さがなくなって、松の香りが移って、皮も柔らかくなります。皮つきのまま5ミリぐらいのそぎ切りにしていただくのですが口当たりは白身ですからさっぱりしているのに、脂がこってりのって、コクがあり、そして何と言っても松葉の香りが美味しいんです。残った頭はいくつかに割り、熱湯にくぐらせ霜降りして鱗をとった後、煮立った湯に入れます。強めの中火でアクを何度も丁寧にとり、そこにお酒とお塩とお醤油と、必ず木綿のお豆腐を1〜1.5センチのさいの目にして入れ、ぶつ切りのネギも入れてお吸い物にします。中落ちはお酒とお醤油とお砂糖で甘醤油味に炊くんです。そして翌日はほんのり甘い鯛そうめん、もしくはお吸い物味の鯛そうめんをたっぷりいただきます。石鯛のダシは本当に美味しいですよ。石鯛は何から何まで食べられて、他にはもう何もいらないって感じ。今回、石鯛のお刺身の造り方を調べてみたんですが、松葉で燻すっていうのはありませんでしたね。当時は不思議にも思わなかったので父に一度も尋ねたことはありませんでしたが、父独特の方法だったのかもしれません。政治家だった父は、訪ねてくるお客さまにもこうしてもてなしていました。イギリス紳士のようにオシャレな人でしたね。石鯛って、はじめのうちは縞柄なんですが、大きくなるにつれて黒ずんで黒銀色に変化するんです。私は縞の時が好き。熱帯魚みたいだし、黒い線がモノトーンのマリンルックみたいでチャーミング(笑)。縞が7本って決まっているのも楽しい。ちなみに石垣鯛はダルメシアンみたいですよ。高級魚だなって思うのは、餌がさざえとかウニとか蟹の爪とかなんです。ファッションでもビキューナの洋服は仮縫いにカシミアを使ったりするのですが、それと同じで高級魚は餌も違う(笑)。それに、スパンコールのキラキラって太刀魚からできてるんですよ。魚もファッションにご縁があるんですね。
いしはらゆうこ◎ファッション評論家、歌手、司会、コメンテーター。仕事は多岐に渡り、ファッション評論は皇室をはじめ女優、俳優、政治家、スポーツ選手、奥様、紳士、若者まで幅広く、スタイリストとしても活躍。講演ではファッションのみならず、女性や母としてのテーマでも好評で、とくに「スカーフの結び方」は各地で人気の催しになっている。そのほかテレビや雑誌、新聞等にも数多く出演。
絵=ひるたえみ
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