私は能登半島の出身で、海に囲まれているせいもあって小さい頃は、2日に1回はお刺身などの魚料理がメインでした。でもすごく新鮮なものが手に入るのでほとんど調理しないんです。する必要がないんです。東京に来てはじめて、その恵まれた環境や地元のおさかなの美味しさに気づきました。本当に身近な存在だったので、好きとか嫌いとかの概念はなく、あって当然、水と同じような感覚でした。もちろん魚は食べることが前提でしたが、海岸で目にするモノは遊び道具として見ていた感覚もありました。実家から海が近くて、千里浜というところでよく遊んでいたのですが、宇宙生命体みたいな半透明のもの、たぶんクラゲかなにかだと思うのですが、流れ着いていたのを拾って、魚の死骸、わかめ、海草、貝殻、山からは蝉の抜け殻、虫の死骸、植物のトゲなど、いろいろなものを集めてお料理をしてレストランをやるという遊びをしていました。思い出すと、いまの活動の原点みたいなところがありますね。規模は大きくなりましたが本質は同じかもしれません。
 魚自体はすごく興味深いというか、あの存在自体が不思議というか、惹かれる感じがあって、おさかな売場に行くと気がつけば長い時間、観察しています。鱗とかヒレの、角度によって色が変わる、なんとも言えない感じとか、水に入った時と陸に上がった時の色の違いとか、造形として美しいと感じます。昔、鯛の鱗だったと思いますがキレイだなと思って、料理したあとに鱗を洗って乾燥させて着色をして眺めていたことがあります。子供の頃のおままごと遊びも自然の、人工では生み出せない鮮やかな色、マテリアル、質感がよかったんですよね。
 本能的な好奇心とか、見たことないもの見てみたいとか食べたことないもの食べてみたいとか触ってみたいという感覚って誰しもあると思うんです。そういうのに私も惹かれるし刺激されることが多いので、海外のマーケットとかデパートの食材売場とかは、知らない森に分け入って行くような、探検という感じがして興奮します。どんな食材もアンコウとかなまことかウニとか、最初に食べた人は偉いなって思いますね。有毒なもので犠牲になった人もいるだろうけれども、そういう積み重ねで今の食文化があるのでしょうから、人の食べたいという欲望は尽きないんだなあと。だからこれからも私自身、好奇心や欲望をもって追究し、新しい食の価値を創造して行きたいと思います。
すわあやこ◎フードアーティスト。金沢美術工芸大学商業デザイン科卒業後、2006 年よりfood creationを主宰。08年の金沢21世紀美術館での初の個展「食欲のデザイン展 感覚であじわう感情のテイスト」以降、現在までにベルリン・パリ・シンガポール・香港・台北・福岡・東京など国内外でフードパフォーマンス「ゲリラレストラン」を開催。人間の本能的な欲望や好奇心や進化をテーマにした表現活動を通じて美食や栄養源でもない「新たな食の価値」を提案している。www.foodcreation.jp
撮影=Nariko Tashiro
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