なかなか一般にはお目見えすることのなかった信州サーモンが、中島水産で販売開始。ノルウェーサーモンに比べると、水揚げから店頭に並ぶまでの期間が短いので、鮮度がよく身がしまっています。日本人好みの適度な脂とさっぱりとした味わいで特有の匂いもありません。その上、生まれも育ちも明確な、安心、安全の信州サーモン。まさに食してほしい逸品です。
信州サーモンって?
海のない信州からサーモンが?と疑問を抱く人もいるでしょう。信州サーモンとは長野県水産試験場が約10年かけて開発した、海に出ない養殖魚。元来、長野県はニジマスの生産が主流でしたが、ウィルス性の病気に弱いという欠点があることから、病気に強いブラウントラウトと交配させることで両方の長所をもった魚を誕生させました。普通の交配では稚魚になるまでに全てが死亡。ですが、世界に誇る水圧処理による染色体操作技術のおかげで、丈夫で美味しい信州サーモンができました。
信州サーモンの特長
通常、サケ科の魚は、成熟期になると卵に栄養を取られたり、生殖行動にエネルギーを奪われるのですが、信州サーモンは卵をもたない一代限り。ですからこれらの問題に左右されることなく、はやく出荷サイズに成長し、病気にも強いので安定供給が可能。さらにエネルギーや栄養がすべて身に返されるので、一年中美味しい状態が楽しめます。

人間だけでなく信州サーモンも、育てる人や育った環境によって個性があります。中島水産で販売される信州サーモンは安曇野の「しなのや」出身。北アルプスの雪解け水が地下水となって届いた池で育てられています。上流には水のきれいな場所でしか育たないと言われるわさび畑があり、申し分ないほどの好環境です。
▲これが約3kgの出荷サイズ。
[左上]上流にはわさび畑が広がる。池までは徒歩3分。
[右上]しなのや、穂高の養殖池。地下水は一年中ほぼ同温度で魚にとってはストレスが少ない。遠くに見える山脈は北アルプス。
[左下]同方向に回遊する信州サーモン。
主として施設の管理とエサやり。エサは1日1回、だいたい15時頃。なぜその時間なのかと聞くと、信州サーモンも食べている姿を見られるのは恥ずかしいのか、食べたいはずなのに、日陰ができないと水面には上がってこないのだとか。エサは魚粉が主の飼料。望月社長いわく「人間が食べられないものは魚だって嫌だろう」と時々試食するそう。味は、誰もが食べたことがあるはずの某社のえびせん菓子に似ているそうです。
同年齢でも成長に個体差はあるので、魚体の大きさに応じて選別し、それぞれの池に移します。

生産者の顔 「しなのや」望月英蔵社長
「育てる上で恐いのは雷。池に落ちると感電死するし、近くに落ちても地下水なので地面を通して徐々に脅威は迫ってくる。結果、ほとんどが死亡し生き残っても3Dに骨が曲がって大切に育てても突如、売物にならなくなる」。雷の多い地域ではないにせよ、何年に一度はこういう被害を受けるそうです。

3年魚=約3 kgサイズに成長すると、いよいよ出荷ラインへ。締める(魚を殺すこと)作業は一見簡単そうに見えるけれども実は至難の業。締め方によってクオリティに格段の差が出るのでテクニックと素早さが求められます。
▲目利きで出荷サイズを池から網ですくい、暴れる前に脳しんとうを起こさせる。魚体を暴れさせると味も落ちるから。
▲えらのところを一刺しして、血抜き。血を洗い流す。
▲少しでも死後硬直を遅らせるために氷水につけて、加工所へ運ぶ。

死後硬直の遅延のためには、加工でも素早い作業が求められます。中島水産へ送られる信州サーモンはセミドレスと呼ばれる、えら、わた、内臓を取り除いた状態で出荷。不要部分を一気に取り除き、洗浄されてクール便で築地に向かいます。
死後硬直すると身が収縮し、味も低下するので、その状態になるのをできるだけ遅らせるのが理想。冷水に浸しているから鮮度が保てるわけではなく、生きている間に腐敗しやすい血を抜いたり、一気に締めることでベストな状態を保てる。

▼セミドレスの信州サーモン。

長野県水産試験場 伝田郁夫さんのお話
あたりまえに、美味しく安全な信州サーモンを楽しめる昨今ですが、ここに至るまで大変な苦労がありました。いまでも長野県水産試験場が卵から稚魚になるまでを担当し、県内に約40軒ある信州サーモン生産者へ稚魚を届けています。
Q. なぜニジマスとブラウントラウトを掛け合わせたのですか?
A. 子孫が残らないこと、順調に育つこと、病気に強いことを基準に思いつく掛け合わせをいろいろ試しました。美味しいことはもちろんですが、見た目の美しさも重視。商品価値を大切に考えました。この研究に約10年、一仕事でした。
Q. バイオテクノロジーを使った一代限りの養殖品種って、安全ですか?
A.水圧処理による染色体操作なのでまったく安全。この技術により、病気に強く、卵をもたない=成熟しない品種が誕生。産卵に要するエネルギーが身に返られるので、一年中美味しい身が食べられます。しかも量産技術は世界でも長野県だけです。
Q. 鮭やサーモンを生で食べるのは心配だけど…。
A.飼育環境に寄生虫との接点がないので、心配がありません。安心して生でもお召し上がりください。
長野県が先頭に立ち信州サーモンをPR。


撮影=菊池陽一郎 取材協力=日本配合飼料
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