神戸に移住して30年、11年目のときに阪神淡路大震災を経験しました。2011年に東日本大震災が起こって僕はすぐ東北に赴き、過去の経験を活かして東北を支援する「たすきプロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトでは、自分と同じ年齢・サイズの人に向けて贈り物をする「たすきバッグ」というシステムをつくったんだけど、これは必ず実名で手紙を入れようというのがルール。たとえ顔を知らなくても贈り物だから。
 すると人って何かをいただいたら御礼を言いたくなるでしょう。それがきっかけで手紙でのやりとりが生まれました。僕もいま大船渡の秋刀魚販売を手伝っているんだけれどもきっかけはそれ。御礼にと秋刀魚が揚がれば秋刀魚が届き、わかめが採れればわかめが届くようになって。でも震災当時は、漁業が盛んなところは、船も無い、わかめも流されてしまったという悲惨な状況だった。けれども翌年には全国からわかめの種が寄せられてその秋には収穫ができ、また秋刀魚も水揚げされるようになった。けれども全国への流通はいまだ難しくて、そこを「たすきプロジェクト」でサポートしています。それで僕、秋刀魚の販売部長をやってるんだよね(笑)。
 かつてはただスーパーで売られている魚や海産物を意識せずに買う程度だったのだけれども、この2年半東北の方々とお付き合いさせてもらって、海が季節を運んでくるというか、春にはわかめなどの海草類、夏にはイカとか鰹、コウナゴが獲れて、秋になると秋刀魚とか鮭とか、冬になるとアワビが獲れるという、魚の歳時記を知ることができた。僕には大きなことだったね。被災すると「時」という概念や時間軸が無くなってしまうけれども、日本には四季があり、歳時記がある。そういう中で人は生き、生かされている。季語にもたくさん魚があるよね。だから季節感を大事にしていきたい。一年中いつでも食べられるというのも、食べたいときが今でしょ、みたいなのもわかるけど、魚は節目で食べたいな。「秋刀魚かぁ、そろそろ秋なんだなぁ」とか「秋刀魚か、それにしても今年は暑いなぁ」とか、会話が生まれて来るんだよね。だからおさかな売場に行ったときは季節を感じてほしいし、そこから生まれる会話を楽しんでほしいと思うね。しかも、日本は海に囲まれた珍しい国。中国では母なる大地だけど、僕たちにとっては母なる海だよね。もちろん土からの恵みもあるけれども圧倒的に海からの恵みの方が多い。僕たちは海と共に生きている。人間は海から生まれたわけだから魚と同じでしょ。僕は昔から食は魚派なの。意識したことはなかったけど、食卓は基本的には魚と思っていた。たぶん僕たちには水とか空気とかと同じように魚を受け入れるDNAがあるんじゃないかな。海は宇宙より不可解と言うけれども、まさに母なる海だよね。
ほりうちまさみ◎1950年3月22日、映画監督堀内甲の長男として、東京都世田谷区に生まれる。AB型。桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇コース入学。その後、劇作家清水邦夫氏・演出家蜷川幸雄氏に師事。在学中に俳優としてスカウトされデビュー。舞台・映画・ラジオCM等で活躍。特に実相寺昭雄監督作品には多数出演し、異色の役柄を演じる。84年より神戸市に転居。95年阪神淡路大震災を体験、その後、市民ボランティア団体を立ち上げ、以降支援活動を開始。
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撮影=飯田かずな
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