魚だとなにしろ私は鮭が大好きで、とくに塩鮭が好きなんですよ。それもね、健康のことを考えない、焼くと塩をぶわーっと吹く鮭。昔あったんですよ。「猫またぎ」なんておふくろは言ってましたけど、猫がまたいで通るほど塩っぱい鮭が、いまだに好きなんですよ。これでもかってぐらい塩っぱい焼鮭をラップにくるんで冷凍しておいて、食べる時に解凍するでしょ。ラップを開いて鮭を取るでしょ。ラップに鮭の生臭い塩がいっぱいついているんですよ。そこにおまんまを入れて握ると、実に旨いんですわ(笑)。焼いたたらこも大好きですね。それも中までちゃんと火が通っている、ぽろっぽろになるようなのが。中学の頃、たまさかね、お弁当のおまんまのコーナーのはじっこにね、焼いたたらこが一腹乗っかっているんですよ。おかずもしっかりあったんですけど、その焼きのたらこだけでも十分でしたね。たらこをどかした後の、さっきと同じですけど、たらこの味がついたご飯がばかに旨かったりなんかしてね(笑)。サンマの開きも好きですね。そのままの方が旨いに決まっていて、私もそのままはめちゃめちゃ好きなんですけど、開いているとうれしくなっちゃうんですよね(笑)。アジでも、サンマでも、開いているのが好きなんですよ。干物ね。総体的には焼き魚が好きですけど、いまでは煮魚もことのほか好きだし、めざしなんかたまらない。おまんまにあって酒に合って。昭和38年生まれの東京の人間にとっては干物とか塩鮭とかめざしとかが一番密着した魚なんでしょうね。懐かしいガキの時分を思い出しますよ。
 魚の食うのが下手な人がいけないわけじゃないけど、軽くこげているはじっことか、香ばしくて旨いのに残したりする人がいるでしょ。私が食べると、きれいですよ。せっかく獲られたのに残したらかわいそうだなって思うんですよね。残っている部分は、食べられた部分をうらやましがっているんじゃないかと。「いいな、お前ら食べられてなぁ」って。だって食べられるために獲られたんですよ。しかも開かれて、干されたりして。だから彼らも食べてあげないとって思うんですよね。
 以前「最後の晩餐」の話が私のところにも来たんです。多くは有名なシェフの料理だろうなと思ったらやっぱりそうで、私だけ「塩辛い塩鮭とたくあんとおまんまとわかめと豆腐のおつけ」。そしたら私のは写真じゃなくてイラストだった(笑)。でも、最後の晩餐ってわかっているんだったらどんなに体に悪いものでもいいじゃないですか。だったら、塩っぱい塩っぱい鮭をおかずにおまんまをどんぶり3杯ぐらい食べて満腹で死んで行くというのがいいですね。
やなぎやきょうたろう◎1963年11月30日東京生まれ横浜育ち。日本大学商学部卒業。89年柳家さん喬に入門。前座名は「さん坊」。93年二つ目昇進、「喬太郎」と改名。2000年12人抜きで真打昇進。古典落語を自在に語る実力を備える一方、鋭い観察眼に基づく新作落語も注目される、古典・新作の両刀遣い。第1回高田文夫杯お笑いゴールドラッシュU優勝、NHK新人演芸大賞落語部門大賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞大衆芸能部門、国立演芸場花形演芸会大賞(3年連続)、など受賞歴多数。
撮影=野村佐紀子/撮影協力=横浜にぎわい座
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