一般的に食用の日本三大かにといえば、たらば、ずわい、毛がにが挙がりますが、ここ、兵庫県香住地区では、ずわいがにのオスのことを「松葉がに」と呼び、メスのことを「せこがに」と呼びます。
香住(かすみ)ってどこ?
 かにの産地のひとつに日本海側が挙げられますが、ここ香住もそのひとつ。兵庫県北部、日本海に面した港町で、柴山港と香住漁港を有するかにで有名な町。かに漁解禁後の冬はまさに、かに一色、春まで続きます。
せこがに?
 「せこがに」「せいこがに」など地域によって呼び名はさまざまありますが、松葉がにのメスのことをこう呼びます。
 松葉がには甲羅幅15p、脚の長さ約30pですが、せこがにはぐっと小さくて甲羅幅7p、全長でも25pほど。重さも150〜160gです。一般的に身を食べるというより、「外子」「内子」と言われる卵が絶品と、かに通に愛されています。
 さらに資源保護のため、せこがにの漁期は11月6日から12月31日まで。2か月弱しか水揚げされない希少なかになのです。
 しかも、甲羅幅7p以下のせこがには漁獲しないという決まりになっています。

  お話を聞いた光春丸(こうしゅんまる)は、4日前の朝11時30分頃に出港しました。このときはせこがにが大漁だったので早めに切り上げ戻って来たそうですが、ときには1週間の滞在になることもあるそうです。
 漁法は、網を海に落とし引く底引き網漁。底引きなのでせこがにだけでなく松葉がにやその他いろいろな魚が揚がります。
 作業は、網を落として船で1時間引いたら1時間停泊のくりかえし。その停泊中に仮眠を取ります。ですが、船内での作業もありますから、ほぼ24時間営業。なおかつ、漁期はほぼ休みなく漁へ出ます。
 漁場は島根県の沖合、隠岐の島の方。片道10〜11時間かけて向かいます。


 せりに合わせて夜中に船が戻ってきます。そしてすぐに水揚げが開始。
 陸に揚げられると松葉がにの場合は大きさや色、状態、傷、爪など、細かい規定で約20種に分けられ、最高クラスにはタグ(柴山港はピンク、香住漁港は緑)が付けられます。
 けれども、せこがにの場合は大きさ別のみ、1〜6のサイズに分けられます。1が最大サイズで6が最小サイズ。サイズ4だと一杯が約140〜160g。通常は5〜6サイズが一番よく獲れるそうです。
 乾燥しないように、水を含ませたスポンジを被せ、時々水をさしたり、せりの時間まで待機します。

 6時30分頃から人が集まり始めます。せりが始まるまでの時間は各々で品定め。加工会社のマルヨ食品も社長自ら品定めに出向きます。
 7時にせり開始。買人が希望額を提示し、高額者が落とすシステム。せり人を中心に瞬時にそのやりとりは行われます。
 せこがにのせりは1箱単位で売買。「セコ 4 100」は1箱にせこがにのサイズ4が100杯入っていることを表します。

光春丸(こうしゅんまる)船長夫妻
100tクラスの急速冷凍機を搭載した最新鋭の船を舵取りする小林東洋志(とよし)さんと奥様の美千代さん。香住では漁師の妻は、船を最後まで見送り、誰よりも早く港に来て帰港を迎えるというのが伝統だとか。海の大将が船長ならば、陸の女将が奥様といったところでしょうか。
マルヨ食品3代目社長
中村善則
さん
「タイミングが命だから」と社長自らすべての仕入れを担当します。目利き力の高さと決断の速さは圧巻。毎朝、港をはしごして、より良いものを買い付けています。

 買い付けたせこがには加工の直前まで、水槽(0〜3度の海水)で保管されます。水槽では人工的にバブルを起こし、泡を利用してゴミを取り除き、さらに紫外線殺菌処理をして、常に濾過をし、きれいな海水を保っています。

※HACCP(ハサップ)とは Hazard Analysis Critical Control Pointの略で、食品の原料の受け入れから製造・出荷するまでのすべての行程において、危害の発生を防止するための重要ポイントを継続的に監視・記録する衛生管理手法のこと。厚生労働省の認証制度。
 まず真水に20〜30分つけてしめて、その後20〜30分ボイル。せこがには生きたままの状態では投入しません。
 というのも、一般的にかには危険を察知すると脚を外す習性があるそうです。だから生きたまま熱湯の中に入れると防衛本能か、脚を外してしまう可能性があるのです。そうするとかにとしての価値はガクっと下がってしまいます。
 また、ボイル温度は高すぎてもだめで、ぷつぷつするぐらいの湯温。蒸気の出具合も調整しながら行います。
 ボイルがすむと、氷で冷やし、みがき(汚れ落とし)に入ります。脚が取れないように、ひとつひとつ気を使いながら丁寧に。意外にも卵は繊維質で包まれているので、ボイルしても落ちません。
 最後は、大きさを揃えながら、氷を敷き詰めた箱に並べて出荷。鮮度が命、丁寧さとスピードが求められます。



撮影=菊池陽一郎
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