桜鱒といえば富山名産の「ます寿し」が有名ですが、冷水域を生息地とする桜鱒の多くは津軽海峡を挟む青森・北海道エリアで漁獲されています。桜鱒とは渓流魚・ヤマメの降海型で、桜の花の咲く頃に漁獲されることや、成熟した魚体に現れる桜色の婚姻色(魚体が平常と違う色になること)から名づけられたと言われています。川から海へ降り、海洋生活を送ることで、脂質が高く、より美味な身へ。
桜鱒漁真っ盛りの青森県むつ市大畑漁港へ行ってきました。

時期によって2つの漁法を 使いわける
 津軽海峡に面する大畑漁港では、スルメイカ漁が終わると桜鱒漁に移行していきます。それは1月ごろから始まり、5月まで続きます。
 まず、1月から3月ぐらいまでは「一本釣り」が主流。水深100mほどのところで回遊する桜鱒を狙います。その漁法は詳細を語れません。一本釣りの場合、しかけはいわば企業秘密。漁も漁師ひとりで行います。孤独な勝負ですから、それぞれで秘策があるようです。お話を聞くところでは、いわゆる「ヘラ引き」という漁法だそうです(図1)。
ヘラ引き釣り
船をゆっくりトローリングさせながら桜鱒がかかるのを待ちます。竿には鈴がついていて、桜鱒がかかると(引っ張られると)鳴るしくみになっています。ヘラは7〜8枚、その先にはカラフルな疑似餌針がついています。ヘラは水を切り、深くに針を落とす役目。写真の疑似餌針は定置網でかかった桜鱒が携えていたもの。カラフルなのが特徴です。
 その後、3月下旬頃から桜鱒は産卵期が近づくにつれて産卵遡上の準備(海水から淡水に体をなじませ、同時に成熟していく)のため、深い沖から浅い丘側へと移動してきます。また沖にはイルカがいるので、子持ちの母鱒にとっては危険がいっぱい。イルカは浅瀬には来ないので丘の方へと移動してくるのです。漁は、そのタイミングにともなって、「定置網」漁が主流となってきます(図2)。
定置網
網は丘からも望める水深27mラインに設置されています。しくみは、回遊している魚を垣網でさえぎり誘導。魚の習性もあり、矢印のように網の中へ入っていきます。一番奥の網は戻れないしかけになっているので、たどり着いたところで、引き揚げられます。


(上)セリではいろんな魚種が漁法別、サイズ別に並べられています。最後に桜鱒の番がやって来ました。箱は手前から小さいサイズで、奥(壁側)に行けば行くほど大きいサイズになっています。一番多く獲れるのは「中」サイズで、大きいサイズはほとんど他県の市場に出回るそうです。(左)この日で一番大きな「特」サイズ。これでも十分大きいけれども、先日、4.8キロサイズが揚がったのだとか。
 漁法によって多少時間の前後はありますが、早朝に出港し、午後から夕方に帰港するというのが基本。
 セリ(入札)の時間は釣りであろうと定置網であろうと、15時と決まっています。ですが、仮に15時に合わなくても、17時まではOK、荷受けてくれます。だからなにがなんでもその時間を目指して戻って来きます。
 万が一、間に合わない場合は、次の日の扱いに。品質が落ちてしまうため、売買価格も当然下がります。
 港に戻って来ると手早く水揚げをし、大きさ別に区分します。その規格は、
 1〜1.5キロ=中
 1.5〜2キロ=大
 2〜2.5キロ=大大
 2.5キロ以上=特
 3.5キロ以上=特特
 中島水産へ届くのは大大クラス以上で、かつ船上で活〆する限定もの。
 セリの準備が完了すれば、漁師の一日は終わります。
生きているうちに魚を締め(即殺し)、血抜きをすること。魚は水揚げされると暴れます。暴れると鮮度落ちもはやくなり、味も落ちてしまいます。活〆は、死後硬直を遅らせることができるため、一番鮮度保持ができ、魚の旨味を逃さない方法とされています。

 漁師からバトンタッチを受けて、中島水産へ届けるのは、31号のあんこうの回でもお世話になった「駒嶺商店」。
 中島水産に届けられる桜鱒は字のごとく釣ったそばから船上にて活〆にした桜鱒のみ。先述の通り、大大サイズ以上に限って、大畑漁港で駒嶺商店が買い付けをし、梱包して、中島水産へと発送します。
 それから各店舗に届けられ、品質保証の印となるピンクのシールが貼られて店頭に並びます。

桜鱒定置網漁に携わる
第六十八 金亀丸船長

佐藤敏美さん



撮影=菊池陽一郎
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