中島水産は市場流通するものより、上質なものを求めて、漁港産直企画に取り組んでいます。羅臼の真鱈もそのひとつ。
羅臼は漁場が近く、海洋深層水を使って鮮度保持をしているため、実に新鮮。これは他に勝るポイントです。さらに「水揚げしてから高鮮度のまま店頭に」を目標として独自の取り組みを行っています。

羅臼というところ
 2005年、知床半島(海域を含む)が世界自然遺産に登録されました。真鱈が揚がる羅臼町は知床半島でも東側にあり、内陸側は知床連山、海側は根室海峡と雄大な自然に囲まれた町です。天気のいい日は国後島も見えます。
 とくに海は、山からの豊富なミネラルが流れ出し、冬には流氷によって植物プランクトンが取り込まれ、養分豊かな海になります。そのため理想的な食物連鎖が起こり、美味なる魚が揚がるのです。
好漁場である理由
 好条件が揃った羅臼沖は地形的にも恵まれており、すり鉢状(陸から一気に深くなる)になっています。そのためいろいろな魚が集まり、また暖流と寒流が交錯する場所でもあるので、えさが豊富。よって太った魚が多く、かつ、潮流が速いのでしっかり運動をした、大きくて上質な魚が揚がるのです。
 さらに近年では、羅臼の海が豊かな理由のひとつに海洋深層水の湧昇(ゆうしょう)があることがわかり、現在、取水施設が羅臼漁港に設置されています。
知床らうす海洋深層水
 一般的に海洋深層水とは太陽が届かず、表層の海水と混ざらない深さにある海水のことをさします。メリットとしては、一年を通して低温が安定していること。細菌による汚染がほとんどなく清浄な水であること。太陽光が届かない深さゆえ、光合成が行われず、植物の成長に必要な「栄養塩」というものが多く含まれていること。
 さらに深層水であればどこでもがいいということではなくて、湧昇現象によって栄養塩に富んだ下層の水が、表層にもたらされている「湧昇域」という場所は、際立って豊かな生態系が形成されるので、好漁場になるということがわかっています。

*栄養塩とは植物プランクトンや海藻の栄養となる、海水中に溶けた栄養物質のこと。

漁、水揚げ
 前述した通り、根室海峡は魚種が豊富。年間を通して80種ほどの魚種が水揚げされます。11月ごろから真鱈漁ははじまり、ピークは12月〜1月。漁法は刺し網漁[図1]で、網を海に投下して一晩おき、翌日に揚げる方法。
 中島水産は水揚げ直後のせりで真鱈を購入し、加工場へ届けるシステムで「水揚げしてから高鮮度のまま店頭へ」を目標にしています。一般的に鱈は脂が少ない魚なので、劣化しにくく、市場に出るまでに1週間が経過しているという話もあるとか。その点、中島水産の真鱈の鮮度は信用がおけます。
羅臼漁港の市場
 羅臼漁港の市場には種類別にはなっておらず、各漁師で魚種、大きさを分けて沖合(船上)で魚箱に詰めて水揚げし、市場に持ち込みます。それが市場に並べられ、その日の担当せり人によって順にせりが行なわれていきます。開市は朝の4時、鮭やイカなど定置網で揚がったものからスタートし、真鱈は10時。その時間にあわせて真鱈を揚げた漁師は荷を運んできます。床面は海洋深層水を流しっぱなし。安定した低温性と清浄性を生かした衛生管理で市場はほぼ無臭です。
 時間になると手かぎを持ったせり人が声を上げはじめます。高値から値を下げているそうですが、素人にはまったく理解できません。しかも一瞬の出来事。羅臼漁協のせりは各日一人が担当するので、全魚種の値段を把握しておかないといけない上、値段は日々変わるので、優秀でないと務まりません。
 中島水産の真鱈はなかでも大きいサイズ。基準としては1箱4尾以上なので、1尾約4kg以上!
 ところが真鱈はオス・メスの見分けが非常に困難な魚。スケトウダラや鮭は見ただけで判断できるようですが、真鱈はいくらベテランでも経験が生かせず、腹を開いてみるまではわからないとか。一か八かで買人は落札していきます。
マルキン岩田商店
 解体作業はひとつひとつ人の手で行われます。 多い時は1日250〜300匹をさばきます。
 文章にしてしまうと簡単そうですが、実に大変な作業。サバやアジ、鮭などは平骨と言い薄べったい形状。しかし真鱈は三角骨と言って立体的になっているので、3枚におろすのも至難の技。熟練の腕で骨すれすれのところに包丁を入れて身を離します。
 解体作業後、フィーレはよく洗い、汚れた部分や傷んだ部分は取り除きます。15〜20分、真水にさらし、アラ、白子、真鱈子もよく洗って、いずれも出荷直前までザルに入れて、保管庫に入れておきます。
 フィーレ(3枚におろした状態の身)、アラ(カマ等)、白子、真鱈子は各々に分けて各店舗に出荷されていきます。各店舗では切り身が主力商品、そのほか鍋セット等も販売されます。
 なお華麗な包丁さばきを披露してくれた工場長いわく「真鱈は見た目では色は黒い方が鮮度が良く、硬直している方がいい。鮮度が落ちてくると白っぽく、ふにゃふにゃしてくる。白子は白い方が、育った環境がいいので良質とされるが、漁獲後の処理も重要」と。
 マルキン岩田商店のみなさん

スケトウダラは真鱈と同じ「鱈」の一種ではありますが、見た目も全然違い、まったく別物。おもにかまぼこなどのすり身や棒干鱈、あとは輸出されチゲ鍋などに使われます。ちなみに「たらこ」はスケトウダラの卵巣のこと。
お話を聞いた羅臼漁業協同組合参事の千綾さんは北海道に10人ほどしかいない「名誉せり人」の一人。名誉せり人に選ばれる条件はせり人の資格を取得後25年経過しており、せり人会の役員経験もあること。しかも現役で活躍しているのは道内では千綾さんだけとか! すごい人なんです。
羅臼は水産業が主流の町ですが、近年では観光の町としても注目。ホエールウォッチング(通年)や流氷観光(2月)、またオジロワシ飛来のメッカらしく、世界中から愛好者が来るそうです。しかもオホーツク海に比べて流氷の出入りが激しいので、流氷を見るなら羅臼側の方がオススメ。いろんな表情が見られるそうです。



撮影=菊池陽一郎 取材協力=株式会社カネヒロ/北海道TM株式会社
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