魚の出てくる短歌を探してみたところ、その数と種類の多さに驚かされた。レストランなどではなく、自分の家で、こんなに魚を料理して食べる国ってほかにあるのだろうか。改めて、日本人の生活にとっての身近さを感じた。その中から、幾つかを紹介してみたい。 冬粥を煮てゐたりけりくれなゐの鮭のはららご添へて食はむと 斎籐茂吉 「鮭のはららご」とは、すじこのことだろうか。「冬粥」の白と「鮭のはららご」の赤の対比に沁みるような美しさがある。この時点では、作中の〈私〉はまだ食べてはいない。食うぞ、食うぞ、うまいぞ、うまいぞ、と思いながら「冬粥」を煮ているのだ。そういう時がいちばん楽しいんだろうなあ。 夕食はウナギに決めたと妻が言う内緒で昼間食した我に 長谷川哲夫 これはおそろしい。「我」はさぞ、どきっとしたことだろう。何か感づいているのか、それとも偶然か。必死に「妻」の表情を読もうとしたんじゃないか。素直に白状して楽になれば、落ち着いた気分で今日二度目の「ウナギ」が食べられますよ。 冷蔵庫の壊れし朝に鯵六尾全て焼き上げ膳に並びぬ 海老根清 「鯵」が〈私〉の好物なんだろう。たくさん買い込んで、ゆっくり楽しもうと思っていたら、なんと「冷蔵庫」が壊れてしまった。その結果、「鯵六尾」が一気に食卓に並ぶことになったのだ。「朝」から思いがけない食べ放題。うれしいけどかなしい。こんなことって一生に一度だろう。 |
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