甘えびの一番濃いエピソード
 甘えびでひとつ思い出したことがあるんです。一番濃いエピソード。
 最初の映画『私の奴隷になりなさい』の出演が決まった時のこと。内容は、旦那と離れて暮らすOL妻が、自分はモテると粋がっている新入社員に誘われて恋に落ちそうになる。でも落ちず、「先生」と呼ばれる人に惹かれ、裏で操られていたという濃い物語で、私はそのOL妻、香奈役だったんです。
 香奈の旦那は単身赴任で地方にいて週末だけ帰ってくるような通い夫状態。俳優配役はなく一度も登場はしないんですが、家にはちゃんと旦那の写真が飾られていたりして。旦那に対しても愛情あるように描かれていて。でも原作を読んでも旦那の人柄があまり見えなくて監督に「香奈の旦那ってどんな人なんですかね?」って聞いたんです。「どんな人だと思う?」って聞かれ「年の差がちょっとあるから、かわいがられているんでしょうね」と返答。「そうだね」と言われ、少し間が空いて「香奈はラブラブ〜、幸せ〜、みたいな感じは出さない人。でも旦那は違うんだよ」と。えっ、違うの?と思っていたら「旦那はね、時間が許す限りどこまでも一緒にいたい人。物理的に仕方なく離れているけれど、香奈の旦那は、回転寿司の甘えびの2本すらも分け合って食べたい人なんだよ」との言葉。
 そんなに香奈は愛されているんだと思ったのと同時に、香奈はその異様な愛を受け入れるだろうけれども、1貫の甘えびが半分にされるのを見ている目はたぶん死んでるんだろうなって思いました。それすら半分にしたいって、旦那、おかしいでしょう。甘えびだけですよね、1貫に2尾(笑)。とにかく監督のこの話は衝撃でした。確かにこの甘えびの話で夫婦にコクが出たけれど、分断しないで2貫頼もうよ!って言いたい。
 でも、私が香奈の立場だったら、甘んじて受け入れます。旦那がそれで落ち着いたり安定しているのであれば、絶対にいやだとは言い切れない。夫婦間ではその方がいいと思いますし。けれども、寿司を半分にするのって大丈夫?マナー的にどう?っていう思いはありますが…。
だんみつ◎1980年12月3日秋田県生まれ。O型。日本舞踊師範、調理師免許を持つ。映画『うなぎ』をきっかけにプレコ(ナマズ)を飼い始め、魚と暮らす日々。8月26日公開の司馬遼太郎原作時代劇映画『関ケ原』(原田眞人監督)に尼僧妙善役で出演。
Copyright (C) 2017 NAKAJIMASUISAN Co., Ltd.