秋の北海道・苫小牧から、幻の魚と呼ばれる最高級かれい、まつかわ「王鰈」が届きました。
まつかわは、通年獲れる魚ですが、12月から3月に常磐沖まで南下して産卵するため、 太っていて肉厚で、もっともエネルギーを蓄えているいまが一番美味しい時期。
ほどよい脂の旨味と締まった身、「なんといっても、お刺身が最高!」と、まつかわを知る人々は口をそろえて言います。

「王鰈」の誕生
 まつかわの漁獲量は、1975年以前は年間約20t程度だったと言われています。それが90年代には1t未満まで落ち込み、絶滅危機を迎えました。そこで2006年、まつかわの稚魚放流を開始し、えりもー函館間の「えりも以西太平洋海域」で獲れた体長35p以上のまつかわをブランド化して、35p以下は捕獲しないというルールを定め、「王鰈」が誕生しました。まつかわは成長の速い魚で2〜3年で35p以上になるため、漁獲量は一気に増加。幻の魚が復活しました。
 そして2014年には、15漁業協同組合+市町村+関連事業者、50名ほどで「魚価対策プロジェクトチーム」を発足。まつかわの認知向上、「王鰈」の定義検討、単価向上などを目指して、がんばっています。
赤い線が規定の35cmのライン。このメジャーは、必ず各船に積まれています

全体の4分の1を若手が占める苫小牧漁業協同組合。青年部部長、山下さんの刺し網漁に同行させてもらいました。


第十八新洋丸船長・山下博史さん(左)と渡邉朋宏さん(右)
網の目は約5cm四方。まつかわだけでなく、ほかの多くの魚も一緒にかかります
 苫小牧の秋は、秋鮭定置網漁と刺し網漁の時期。刺し網とは、水面に対して網を垂直に入れ、そこに魚がかかるのを待つ漁の方法。まつかわはこの刺し網漁法で揚がります。
 山下船長の船はブイを目指し、仕掛けた刺し網に向かいました。漁場は港から約30分。
 作業は「海中の網をドラムロールで巻き上げながら、かかった魚は取り外して水槽へ入れる」。様子を確認しながらこの作業を繰り返します。そして、整えてきた網を仕掛けて、船上作業は終了します。年間100種類以上の魚が揚がるこのエリア。いろんな魚が一緒に揚がります。
水揚げしたまつかわは苫小牧市公設地方卸売市場のセリに出されます。
朝6時30分にセリがスタートするので、早朝から搬入作業が行われます。
 目方を測って「屋号/枚数/目方」の紙を各ザルに入れ、蓋をして、水温調節された滅菌海水の水槽のなかで待機。活魚の方が好まれるので、細やかな配慮も怠りません。
ブザーとともにセリ開始。この時期は秋鮭からはじまります。
中島水産行きのまつかわは、苫小牧漁業協同組合の目利きがセリ落とします。
 苫小牧漁業協同組合は自身の市場を持っていません。生産者でありながら、自らも販売者となり、公設市場に出荷されたものをセリで落とします。
 普段はニコニコ顔の阿部島さんも、このときばかりは表情が一変します。というのも、ちょっとでも出遅れたら終わり。セリ人が値段を下げていくなか、ここだ!という瞬間に声を上げます。先に言ったもん勝ちですから、超集中。
 セリ落としたら、落札者の紙札を置きます。
 まつかわは、水揚げ後、大半は生きている強い魚。けれども、すぐには出荷せず、水温調節された滅菌海水の水槽で蓄養をして、ストレス緩和をします。48時間蓄養すると、胃の中の内容物を全部吐き出し、吐き出すことで活力を取り戻すので、よりいい状態で提供できます。
中島水産がこれだ!と決めた理由のひとつが、泳がせて放血するシメ方。
しっかり血を抜くことによって、より長い鮮度保持と、より美味しい身の提供が可能に。
1. エラのつけ根に刃先を入れて、3cmほど縦に切り込みを入れます。そして、水槽へ
2. 滅菌海水で15-20分泳がせます。水温は厳重注意で蓄養時と同じに。魚にとって1℃変わるというのは、人間で6℃変わるのと同じなんだそうです。放血しているので、まさに血の海!
3. 水槽から揚げてもまだ生きています。血を抜き切ることが重要なので、尾の部分にも切り込みを入れ、より血を抜きやすくします。そして、神経切りをして、完全にシメます
4. 証明書代わりの「王鰈」タグをつけて、氷に包まれるように箱詰めし、出荷。中島水産行きのまつかわは1尾700g以上!
このタグが信頼の証。「王鰈」というブランド名は一般公募により名づけられました

Q 特徴は?
A 名前の由来にもなっているが、有眼側のうろこは松の皮のよう。無眼側は、メスは真っ白でオスは黄色。そしてヒレのストライプが一番の目印。


Q 生息地は?
A 主に北海道の太平洋沿岸。水深200mより浅い海域で生息。産卵時には常磐沖の方まで約800kmもエサを取らずに南下。いまだ生態は謎めいている。


Q サイズは?
A 王鰈」は体長35cm以上とされているが、大きいものでは、メス80cm、オス50cmにもなる。メスの方が成長が速い。味は大小変わらず美味。刺身が現地おすすめの食べ方。

(左から)冷凍冷蔵庫工場長の原田和典さん、魚価対策プロジェクトチームリーダーの阿部島蘭さんと赤澤一貴さん、参事補の藤井功さん



撮影=菊池陽一郎 取材協力=苫小牧漁業協同組合/北海道ぎょれん
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