THE・脊髄

 金目鯛といえば、昔どこかでオリンピックをやってた時、金目鯛をネタに一コママンガを描いたことがある。優勝した選手が表彰台の上で金メダルの代わりに金目鯛を首からぶら下げて喜んでいるというものだ。自分ではその脱力感が結構気に入ってたんだけどあまりウケなかった。悔しいから今度の東京オリンピックでも描いてやろうと思ってる。
 そんな金目鯛だけど、フツー首にかけてる人はいなくてたいていは切り身になっておとなしくお店に並んでる。しかし刺身ってのホント
「美味しそう」だね!あれを肴に醤油をちょっとつけて…なんて想像するとヨダレがでてくる。ところがそんな魚がおろされる前の姿でぐったり横たわっていると「美味しそう」より「かわいそう」に思えちゃう。この鯛にも親や子はいるだろうに、とか思っちゃう。だけどそんな魚が海の中を泳いでる姿を見ると一挙にそれは「カッコいい」に変わる!一匹でヒラヒラ海底を舞うもよし、群れで渦を作るのも良し、大きな魚が悠然と泳ぐのも何ともカッコいい。全身を左右にくねらせ水をかき分ける彼らを見ると「よっTHE脊椎!」と声をかけたくなる。知ってのとおり人間のような哺乳類も爬虫類も皆脊椎動物なのだが、いざ脊椎の使い方はご先祖さまの魚に到底かなわない。魚は脊椎を縦横に使いなんとも美しく泳ぐ。これぞ脊椎の正しい在り方だ。それに比べると人間なんか手足なんてものが生えてるせいか脊椎様の影が薄く、せいぜいヘルニアとか腰痛とかで存在感をアピールするくらいだ。まさにお魚様はTHE 脊椎といえよう。万歳脊椎!万歳お魚!しかし世界の中でそんなお魚を好きな日本人が、どうにも脊椎動物らしくない。むしろ昆虫のような外殻動物のようだ。内側の精神に一本通ったものがないから、世間体とか所属とか振舞いとか外側の殻で自らを護ろうとする。もう少し一人一人が脊髄がしっかりするよう魚を食べながら念じた方が良いのではないだろうか。ちなみにお刺身と冷えた日本酒は脊椎どころか全身をとろけさせちゃうけどね。

しりあがりことぶき◎1958年静岡市生まれ。
1981年からビール会社で宣伝や商品開発に携わる一方、独自の作風のマンガ家として活動。
1994年に独立後はマンガ以外にも精力的に活動範囲を広げ、最近では美術館での展示も多い。
代表作「エレキな春」「真夜中の弥次さん喜多さん」「あの日からのマンガ」
2014年春、春の受勲で紫綬褒章を受章。

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