長い間マグロ船に乗っていた友人がいて、よく遠洋漁業の話をしてくれた。しかしそんな話を聞くこともなく、ぼくは子供の頃からマグロが大好きだった。
 食べ方はさまざまだが、どれを取っても完璧な美味しさを出すのがマグロだろう。表面に醤油を塗ってのてり焼、小さく采の目に切った角煮、缶詰のフレークと、どれも美味しいが、何といっても刺し身だろう。大トロ、中トロ、赤身と、ワサビ醤油で食べたら、かーっ、もうたまらない。
 マグロを買ってきて、手巻き寿司やマグロ丼をつくることもよくある。マグロ丼は御飯を少なめによそいマグロをたっぷりのせる。とにかく美味しい。
 寿司屋でぼくが最後に食べるのがマグロのヅケ。中トロと赤身を一つづつ握ってもらう。はじめ赤身の方を食べ、つづいて中トロへいく。これが、ほんとに美味しい。改めておもうのだが、マグロとはほんとに味をかみしめたい魚だ。

安西水丸◎イラストレーター、作家。1942年生まれ。日大芸術学部美術学科卒。電通、ADAC(NY)、平凡社を経てフリーに。村上春樹との共著も多い。エッセイ集「4番目の美学」「メロンが食べたい」を出版。

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