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タイといえば魚の王。「めでたい」という言葉に韻が重なることから、祝儀には欠かせない。中国でも赤い魚を幸運と繁栄のシンボルとしているから、タイの人気は古くから高かった。 では、なぜタイというのか。平らの「タイ」に由来する。側偏して平たいから、この名がついた。ちなみに漢字の「鯛」は、中国では小魚一般をあらわし、かならずしも赤いタイ(マダイ)を指してはいなかった。日本に漢字が輸入されたとき、苦心の結果、タイにこの字をあてたらしい。 タイは古代から日本人の愛する魚だった。小さいうちは浅場にいるが、大きくなると水深三十メートル以上の深みにまで移動する。ところが広島県三原市能地の海では、毎春、タイが水面に浮き上がる「浮鯛」現象がある。急流に押されて深みから水面に上がったタイが、浮袋の膨張のためにプカプカ浮いてしまう話が、『日本書紀』にも出てくる。この浮鯛を一挙に漁獲できるので、海の恵みと考えられた。戎神を祭る西宮神社では、タイは「前の魚」と呼ばれ神前に供えられた。ただし戎が元来釣りあげて抱きかかえるタイは、黒鯛だったという。釣といえば、タイ釣は神話にも登場する。山幸彦が海幸彦から釣針を借りて海へ行ったところ、大切な釣針を
こうして釣りあげたタイは、神前に供えられ、人々の食卓にのぼった。江戸時代の料理書『本朝食鑑』に、タイを百薬の長とたたえ、食べれば寿命をのばし乳の出を良くし、魚の目も治る、と書いてある。徳川家康が、京都の貿易商茶屋四郎次郎の用意した「タイの天ぷら」食べすぎて亡くなった、という噂もある。この時代の天ぷらとは、唐揚げに近い料理だったが、よほどおいしかったのだろう。こうした人気にあやかり、多くの魚が○○ダイと呼ばれるが、じつは本来のマダイと同じ科に含まれる「同類」は十種ほどしかいない。 |
illustration=Aramata Hiroshi |
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