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私はツウな女になりたかった。蜷川家はもともと富山の出身なので祖父も祖母もみんなお魚が大好き。「アコウダイの目玉を食べてみろ」だとか「魚は肝まで食べなきゃツウじゃない」とかいわれて育った。血合や皮が魚のいちばん美味しいところだと教わり、食卓にはよく鯛やブリのあら煮、鮭のハラスなどが登場したモノだ。後年、北海道にロケに行ったとき「あんた魚すきだねえ」と、骨しか残っていない私のお皿をみて、漁師さんが感心していた。幼い頃からの修行のタマモノだ。 冬にはよく、祖父は鱈ちりを食べていた。鱈、木綿豆腐、葱のはいったシンプルな鍋。鬼平や久保田万太郎が好きそうな鍋だ。醤油を昆布出汁でのばし、荒く切った柚子と薬味で食す。子供の私は、その美味しさがどうしてもわからなかった。
祖父が好きだった鱈ちりの味がわかるには、もう少し「人生という名の修行が必要なのかもしれないなあ」などと、まだまだツウな女になりきれない私は、金目鯛と銀鱈の鍋をつつきながらフウッと思うのでありました。 |
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illustration=Ninagawa Yuki |
Copyright (C) 2003 NAKAJIMASUISAN Co., Ltd.
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