東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、たびたび報じられてきた食の安全性。市場に出回る食品すべてが危険だと思っていませんか? 結論からいうと水産物に関しては、安全なものしか市場に出てきません。つまり店頭に並ぶものは食べても大丈夫なものしかないのです。ではどうして安全なのか。放射性物質のこと、安全と言える理由などをお聞きしてきました。

Q よく耳にするセシウムやヨウ素って何?

A 核燃料が核分裂した時にでる放射性物質の一部。今回の事故でいろいろな放射性物質が放出されています。ただ、それらの多くは微量でしたが、大量に放出されたのが、放射性ヨウ素(ヨウ素−131)と放射性セシウム(セシウム−134とセシウム−137)です。ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料になるものですから、甲状腺に集まる性質があります。そのため、放射性ヨウ素が体内に入ると甲状腺に集まり、甲状腺ガンになる可能性が高まるということで関心を集めました。しかしながら、ヨウ素−131の物理学的半減期は約8日で、8日経過する毎に濃度が半分になりますが、セシウム−134とセシウム−137の物理学的半減期はそれぞれ約2年と約30年なので、長期的に注意が必要なのは放射性セシウムのほうです。

Q 海に流された放射性物質はどうなるの?

A 「海洋中の放射性物質の動き」(図1)が表しているように、海に流された放射性物質は、希釈や拡散で濃度がかなり薄まります。また、懸濁粒子に吸着したり凝集沈殿したりして、海底に沈んでいきます。この海底に堆積した放射性物質が、ヒラメやカレイといった底魚と呼ばれる海底に住む魚を汚染するのではないかと危惧される方が多いですが、これまで海底土から底魚が汚染されたという例は聞いたことがありません。これは底魚の餌となる底性生物に海底土から放射性物質が移行しづらく、また底魚も海底土を体内に入れないように餌を食べるからだと考えられています。このあたりのことは今後の研究で明らかにすることが必要であると思います。水産庁の方針に従って地方自治体等は、底魚類も含めて放射性物質の調査を行っています。

Q 食物連鎖を通じて放射性物質は蓄積されないの?

A 放射性セシウムは水銀のようには蓄積され続けません。亜鉛やカドミニウムのような重金属の放射性物質であれば魚の体内で蓄積されますが、今回の事故では、そうした放射性物質はほとんど放出されていません。放射性セシウムが蓄積され続けない理由は、「魚中の塩類の流れ」(図2)を見ればわかっていただけると思います。

Q  「食べても大丈夫!」ってどういうこと?

A 漁場が形成されて漁を始める前に、事前に試験船を出して調査を行います。安全性が確認されたら本格的に漁を開始します。漁を行っている間も、定期的に調査を行いますから、暫定規制値を超える水産物は市場に出回りません。暫定規制値というのは、一定量1年間食べ続けても健康被害が出ない濃度ということです。この規制値というのは、安全性をみて、かなり低く設定されています。水産物では、放射性ヨウ素が2000ベクレル/kg、放射性セシウムが500ベクレル/kgと設定されています。市場に出回っているものは、この暫定規制値以下のもの=食べても大丈夫ということです。

Q コウナゴから高い濃度の放射性物質が検出されたと報道されていましたが、大丈夫なんでしょうか?

A 原子力発電所の水素爆発により空気中に大量の放射性物質が放出されました。この放射性物質が海面に降下して表層にあったため、表層に漂っているコウナゴが汚染されてしまいました。その大部分はコウナゴの体表に付着していたことがわかっています。その後、海洋に放出された汚染水も塩分濃度が低く海水よりも軽いため海水の上層に存在し、コウナゴを汚染したようです。ただし、高い濃度が検出されたコウナゴというのは、漁を始める前に調査をするために採取されたものでしたから、全く流通していません。福島県ではこれまで暫定規制値を超える水産物がいくつか報告されていますが、現在福島県では漁が行われていませんから、こうしたものが流通することはありません。

Q  魚のどの部分を調べているのですか?

A 放射性物質は内蔵に溜まるものと思われている方が多いかもしれませんが、どの部分に溜まるかは放射性物質の種類によって異なりますから、調査する放射性物質にあわせて調べる部位を変えています。環境中に大量に放出されて現在問題になっている放射性セシウムは、体内ではカリウムと同じような挙動することが知られています。これまでの研究から、セシウムは特定の部位に大量に溜まるわけではなく体全体に分布することが知られていますが、筋肉の部分に少し偏る傾向にあります。これは元々筋肉部分にカリウムが多く含まれているからだと考えられています。そのため、若干ですが濃度が高い傾向にある筋肉の部分を調べることにしています。また、食品の安全性という観点からも、可食部である筋肉部分を調べるというのは合理的だと考えています。当然、丸ごと食べるようなコウナゴやシラスといった魚は全体で調べています。最近話題のストロンチウムは骨に溜まるということが知られていますから、骨を含めて調べることになります。

Q 調査対象魚種は?

A 市場に流通するものを調べています。現在、北海道から神奈川県に至る10都道県において、水産物の放射性物質調査が幅広く実施されています。これまで500件を超える調査が行われ、いくつかの水産物で暫定規制値を超えるものが見つかっています。ただ、こうした暫定規制値を超える水産物が採取された海域では、地震・津波・原発事故の被害があり漁業が行われていませんでしたし、その後内水面も含めて出荷制限や採捕が自粛されていますから、暫定規制値を超える水産物が市場に流通することはありません。福島県の沖合海域を含めて広く回遊するカツオ、サバ、サンマ等についても、週1回程度主要水揚港において調査を実施し、速やかに分析結果をお知らせすることにしています。

県をはじめ水産関係者は最善を尽くし、消費者に安全なものを届ける努力をしています。もっと詳しく知りたい人は水産庁のホームページ(www.jfa.maff.go.jp/)をチェック! 調査された魚種と規制値一覧が毎日更新されています。取材・資料協力:水産庁
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