学ラン姿の独特なパフォーマンスで人気のダンスカンパニー、コンドルズを主宰する近藤良平さん。数々の分野での振付・出演はもちろん、最近では役者としても活躍中です。南米育ちの彼ならではのおさかなの思い出とダンスを通して得た素敵なエピソードを聞かせてくれました。
 僕の母親が銚子出身というせいか親戚も佃煮屋をやっていたりして、自分自身、基本的には肉食なんだけど、魚は身近な存在かな。子供の頃は南米にいたから日本の魚の文化はあまり知らないんだけど、チリといえば、むかしカタクチイワシ、いわゆるアンチョビね、全部チリ産だったし、とにかく南米の人はすごい魚を食べるんだよね。サルディーニャ・アッサードっていうイワシの塩焼きがあるんだけど、僕のおぼろげな記憶だと休日に公園とかで焼いていて、パンにはさんで食べたりしていたなぁ。とはいえ、日本人だから、魚といえば醤油で食べるって感じだったけど、その当時はその醤油が貴重で手に入りにくくて、普段は中国産のあまり美味しくない醤油が主で、たまに日本の醤油が手に入ると「うわーっ、うめー」って感じで魚を食べようってなっていたのを覚えている。あと、日本ではアサリの潮干狩りをするけど、南米はムール貝なんだよね。日本だとさ、ムール貝っていうとカッコつけているというかワイン飲むかって感じだけど、南米だとちっとも偉そうな雰囲気じゃない。ムール貝の味噌汁は飲んでなかったけどね(笑)。
 もうひとつ魚の話で、最近すごいと思ったことがあるんだけど、ダンスを全く知らない一般の人向けに週1回ワークショップをしているのね。「コンタクト」という、言葉では表現しにくいんだけど、人を押したり引いたり回したり持ち上げたりなどをやるんだけど、それってとても奥深くておもしろい。そのクラスに寿司屋の見習いさんが趣味で来ているんだけど、あるとき「近藤先生!すごいです。なんか刺身の切れ味が変わりました!」って言うんだよ。つまりコンタクトが取れたっていうか、簡単には言えないけれど、いままではお刺身を手で切っていた。でも体の間合いとか移動とかがうまく取れて、包丁を入れた時の骨の到達点が分かるようになったって言うんだよね。すごい話だと思わない!? 感動したね。舞台のためだけにやっているわけじゃなくて、そういう日常に還元されたと思うとうれしい。介護とかはなんとなくイメージできるけど、お寿司とダンスってまったく別のものじゃない。すごいよね。でもそう思うと、魚市場とかの競りも一種のパフォーマンスって感じがするし、僕たちの舞台とは違うけど、すごい本番って感じ。緊張感があって、上がれない感じがあって、俺に任せろって空気がある。魚とダンスって意外に無関係じゃないんだね。
こんどうりょうへい◎振付家・ダンサー。学ラン姿で踊る男ばかりのダンス集団・コンドルズ主宰。世界20カ国以上で公演、NYタイムズ紙絶賛。渋谷公会堂公演も即日完売。NHK「サラリーマンNEO」振付出演。その他あまたの映画、演劇、CMの振付。NHK「てっぱん」オープニングダンスを振付し、昨年末の「紅白歌合戦」にも出場。南米育ち。愛犬家。
撮影=HARU
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