▲ 漁場の津軽海峡。天気の良い日には向こう岸に北海道が見えますが、近くに見える日の翌日もしくは翌々日には天気が荒れると漁師さんは言います。案の定この翌日はみごとに天気が崩れました。
一般的にあんこうは「西のふぐ、東のあんこう」と並び称される高級魚で、ほぼ日本全国で水揚げされます。しかし生きたまま揚がるのは風間浦だけ。どこよりも鮮度が高い「風間浦あんこう」、この冬はじめて中島水産に届けられます。
あんこうの漁期は各漁協により異なりますが、例年11月〜6月となっています。漁場は津軽海峡。風間浦にある3漁港からいずれも約5km(約30分)と近距離にあるため、捕獲後、船に完備した水槽の中に入れて生かしたまま帰港できるというメリットがあります。漁法も刺し網漁が主流ですから魚体をほとんど傷つけることなく揚げられます。また下風呂地区に限っては「空釣り」と言われる伝統的な漁法があり、大きなかぎ針で引っ掛けて獲ります。この漁法は網がまだ充実していなかったころ、砂利という地形を生かした方法(岩場と違い余分なものは引っ掛けない)で発達したようですが、加減が難しく技術を要する上に管理が大変とか。いまや空釣り漁師は数人のみだそうです。
空釣りの仕掛け
この地域のあんこう漁は網を仕掛け、一晩置いて、翌日に揚げるという「刺し網漁」が主。網は網目サイズが対角線1尺3寸=39.39cmというあんこう専用のものを使用します。上部には耐圧の浮子(あば)がついており、下部は鉛入りのロープでできていて、網は海底に下部のロープが来るように、また上部が水深50m〜100mぐらいのところに来るように15反(800m)を繋げて設置します。あんこうは行く手を阻まれると下に行く習性があるので、「下部はしっかり固定、上部は遊びが取れるようゆるめ」が鉄則。そうしないと一度かかっても、するりと抜けてしまいます。また風間浦の漁場は潮の流れが激しく複雑で大きく渦を巻くので漁はなかなか難しいですね。
蛇浦漁業協同組合組合長
中塚義光さんのお話
帰港後はすぐさま漁師から出荷作業を行う駒嶺商店に預けられます。駒嶺商店に着くと工場内の水槽に船別で移され、出荷前畜養。ここで最低でも1日以上は休ませます。休ませることでストレスを和らげ旨味成分を保つことができるのだとか。その間、餌は与えません。あんこうにとって水温5度〜12度が適温なのですが、温度にも気を配って安静を与えます。
畜養中
活〆直後のあんこう 活〆後、吊るして捌き洗浄
水槽で休ませたあんこうは活〆(かつじめ)して出荷します。〆をきちんとやることによって身の硬直速度が抑えられ刺身に使えるような鮮度の高いものになります。暴れると旨味も下がってしまうので目隠して手早く作業。活〆後は胃の内容物や腸を除き、きれいに洗浄して箱詰め、漁港別・船名入り「風間浦あんこう」タグをつけて出荷します。
駒嶺商店 駒嶺剛一社長のお話
風間浦で獲れるあんこうはほとんどが生きて水揚げされますが、とくに我が社では元気なものしか扱いません。身が全然違いますから。しかも刺身にできるほどの鮮度が保てるあんこうを県外に出せるのは活〆のものだけ。ここは全国でも唯一だと思います。我々は国・県とともに鮮度保持や旨味成分の維持等の研究をしていますが、なにより取り扱いをきちんとしてくれる漁師さんがいるからこそ成り立つ事業。まさにチームワークで「風間浦あんこう」が県外に出荷できるのです。
食べられないところはないあんこうですが、生態はいまだ謎が多く、外見のグロテスクさに反してデリケート。そこで、よりよい活あんこうを提供するべく駒嶺商店と共同で研究を行っている青森県産業技術センター下北ブランド研究所の竹谷主任研究員に聞いてきました。
「基本的に移動する魚ではなく、海底で静かに暮らしていると考えられています。するめいかをよく食べているようですが水面まで上昇し海鳥を食べていることもあり、ときには長靴が胃から出て来ることもあります。とにかく雑食です。しかし、あんこうはとてもデリケートな魚で、卵を孵すことに成功した人はいますが、いまだ成魚まで育てられた人はいません。餌を与えても食べないんです。頭部に見られる触覚みたいな部分は『背びれ第1棘(きょく)』と言い背びれの一部が進化したものだと言われています。疑似餌の役割をしており、海中ではそれを揺らして魚をおびき寄せて食事しています。夜行性でとくに夜中12時頃に活発になります。正確な理由は不明ですが、食事のためではないかと思われます。他の魚に比べて成長は速く、1年で1〜2kgのペースで大きくなります。ですから水揚げされる20〜30kgサイズは約10年ものと思われます。一般的に魚の年齢は耳石(じせき)の年輪でわかりますが、あんこうのはにせものも多いので、正確な年齢を測る術は現在のところわかっていません。ちなみに漁獲されるあんこうのうち、95%メス、5%オス。身体のぬめりは、鮮度がいい方が粘液が多く出ます。」


撮影=菊池陽一郎 写真協力=駒嶺商店/青森県/風間浦村
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