5年前に長野に引っ越して来た。大きなプロジェクトを終えると、必ず引っ越しをしたくなる私は、それまで毎年のように引っ越しをし、その土地に根を張る、ということがなかったのだが、長野は気がつけばもう6年目。今まで住んで来たどの土地よりも地元感があり、思った以上に長く居座ってしまっている。ここに越して来て最も嬉しいことは、野菜が安くて美味しいこと。一方、一番寂しいのは、新鮮なお魚が手に入りにくいこと。元々、それほど魚を食べる方ではなかったのに、「鮮魚」から距離的に遠くなったことで、今まで以上に欲するようになってしまった。無い物ねだりもいいところだ。長野には、地産地哨の美味しい料理を出すお店がたくさんある。その中のいくつかが気に入り、車を30分〜1時間半走らせれば到着するお店なら、何かにつけて行っている。記念日や友人が遊びに来てくれた時は、少し遠出することになっても、記憶に残る時間を過ごしたい。
 最近まで1時間圏内にあった、もの凄く安くて美味しいお店で出て来たのが、薫製にした信州サーモンを使ったサラダだった。信州サーモンにお目にかかるのはこのときが初めてだったが、調べてみると、信州サーモンを提供しているレストランはこの周辺ではそれなりにあり、今まで行ったことのあるお店もいくつかあった。ただ、特別に何かないと近隣での外食はなかなかしないので、実際に出会えたのは、5年間で3度ほど。私にとっては貴重な体験だった。いただきながら流石の美味しさに、「やっぱり鮭って美味しい!しかも地のものとなればなおさらっ!」と思っていたが、信州サーモンはほとんど鮭ではなく、ほぼ鱒だとのこと。川の水が美しい長野で養殖された美味しいお魚は、長野在住の私の口に入る瞬間も、まだまだ新鮮!ということが嬉しい。
 私が信州サーモンに出会ったお店は2時間圏に越されてしまったので、次、いつ行けるかわからないが、それでも長野県内。信州サーモンには、2時間かけてあのお店に会いに行くのが早いか、どこか近くのお店で再会するのが早いか。とにかく「美味しい状態」でまたゆっくりお会いし、初対面のときのあの感動を呼び覚ましてもらいたい。
たばいも◎1975年兵庫県生まれ。現代美術家。1999年京都造形芸術大学卒業制作として発表したアニメーションを用いた インスタレーション作品「にっぽんの台所」がキリン・コンテンポラリー・アワード最優秀作品賞受賞。以後2001年第1回横浜トリエンナーレ、02年サンパウロ・ビエンナーレ、06年シドニー・ビエンナーレ等数々の国際展に出品。主な個展に「ヨロヨロン」(06/原美術館)「断面の世代」(09/横浜美術館、10/国立国際美術館)。11年ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表。14年MCAシドニーで個展開催予定。長野県在住。
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