私はものごころついてからずっと北海道小樽市で育った、生粋の“漁港っ子”なのである。「小樽育ち」と言えば必ず「お寿司がおいしいですよね」「イクラ丼、最高でしょう」などと魚介類の話になる。
 でも、私はつい最近まで、自分がさかな好きともさかなにウルサいとも思っていなかった。小樽がらみでおさかなの話を振ってくる人には、「地元にいるとそんなに食べないものですよ」などと答えてシラけさせたりもしていた。
 それが間違っていた、と気づいたのは、比較的、最近になってからだ。大学に勤めるようになって学生たちとときどき回転ずしに出かけるようになった。手軽だし安いからだ。
 学生たちは「マグロうまーい」「イカがプリプリしてる」などと大喜びで舌鼓みを打っている。私はグルメではないので、回転ずしクオリティに不満足というわけではない。それなりにおいしいな、と感じながらコハダやハマチなどをけっこう食べる。
 「あれ」と思うのは、会計のときだ。食べ盛りの学生たちとはいえ、このレベルならひとり千円ちょっとかな、などと計算していると、「1万8千円、おひとり様2千5百円になります!」などと告げられる。「今日はおごるよ」などと言っていたのに、あわてて「ごめん、千円ずつ集めていいかな」と集金を始め、カッコ悪いことこの上ない。
 そう、どちらかと言えば味オンチの私だが、やっぱりふるさと小樽のおさかなは安い。そして、たしかに新鮮でウマい、ということがこの年になってようやくわかってきた。
 それからは、小樽に帰省するたびに高級店にではなく、回転ずしや持ち帰りずし店に出かけ、ひとり「そうそう、これだけ食べてもたった千円、こうでなくっちゃ」などと納得している私である。
 次はいつ「小樽の回転ずし」に行けるかな。小樽に観光に出かけ、回転ずし店であやしくうなずいている中年女性がいたら、それは私だと思ってください。
かやまりか◎精神科医・立教大学教授。1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。NHKラジオ第一「香山リカのココロの美容液」(金曜・夜9:30より)でパーソナリティをつとめる。近著に『50代になって気づいた人生で大切なこと』(海竜社)、『堕ちられない「私」 精神科医のノートから』(文藝春秋)、など、著書多数。
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