山形県の庄内浜では、秋(9月〜11月頃)に脂の乗ったサワラをはえ縄で獲り、2s〜4・9sの活きの良いものだけを船上で活〆・神経抜きをし、「庄内おばこサワラ」として出荷しています。「おばこ」は東北の方言で娘さんを表します。漁師さんたちのプライドが詰まった「庄内おばこサワラ」が、いかに丁寧に扱われ、私たちの食卓へ届くのかが、取材を通して見えてきました。



庄内おばこサワラとは
 タイ、マグロ、エビ、ノドグロ、フグ、ハタハタなど多様な魚介類が水揚げされる庄内浜ですが、サワラが獲れるようになったのはここ10年程。元来、サワラの主な産地は福岡、長崎、島根〜石川の日本海側、本州中部以南(伊豆半島、能登半島)から東シナ海とされてきました。温暖化の影響か、平成以降は、山形、秋田、宮城、岩手など東北地方からの入荷も増えています。
 鰆の字が示すように、旬は春の印象が強いサワラですが、実は産卵期前の秋〜冬が最も美味しいとされています。「庄内おばこサワラブランド推進協議会」に属する漁師さんは13名。その内5名が漁を営む鶴岡市鼠ヶ関漁港で、平成29年度「水揚げ金額No.1」(はえ縄漁3t未満の部)に輝いた漁師・本間金弥さんの漁に同行させていただきました。

早朝の港はまだ真夜中のよう。

 
船上での処理が決め手
 ここからがスピード勝負。包丁でサワラの脳天と尾ひれの付け根に切り込みを入れます。すかさず脳天から尾の方向に針金を差し込み、神経を抜き、活き〆にします(コンプレッサーを使う場合も)。この作業によりサワラの身が瞬間的に硬直し、鮮度が保たれます。

まずは脳天と尾ヒレに切り込みを入れる。

脳天から尾まで針金を通す。30秒未満の早業。
 処理されたサワラは氷水の入ったクーラーボックスに収められ、傷がつかないよう、布やスポンジでしっかり固定されます。
 港に戻るとすぐに氷の敷かれた発砲スチロールに収め、ブランドのタグを付け、船名と船長の名前のシールを箱に貼れば出荷準備完了。早ければ翌日には消費者の元に届きます。

表面が傷つかないよう慎重に保管。

おばこサワラとなるのは2〜4.9kg。
 通常、サワラは日持ちしない魚と言われますが、「庄内おばこサワラ」は水揚げから1週間経っても刺身で食べられるのが特徴。4日目以降も脂を拭きとるなどの手をかければ、より熟成し、旨みが増すと評判です。そして、それを実現させているのが、漁師さん一人ひとりの手間と心意気なのです。今後も庄内を代表するこのトップブランドから、目が離せません。


競りにはかけず、このまま冷蔵庫へ。
海成丸 漁師 本間金弥さん/松山武さん
本間さん「1〜6月はタイ、7、8月はマグロ、年間を通してフグやタチウオを獲っています。一人乗り漁船は全てをワンマンで行うため大変ですが、遣り甲斐はあります。特に庄内おばこサワラは活き〆・神経抜きの作業があるので気力と体力が必要です。過去に一日で100匹釣れたときはさすがにふらふらになりました。今年船を新しくしたばかりなので、益々頑張っていきたいです」
松山さん「以前は渋谷のイタリアンでシェフをしていましたが、素材を直に知りたくなり、3年前に鶴岡に移住しました。3年間の研修を経て、年明けから一人立ちします。海と空と山並みの美しさに日々魅せられています」

海成丸船長・本間金弥さん(右)と松山武さん(左)
山形県漁協 販売企画課 安藤大栄さん
 「今年の4月に赴任してきました。庄内浜は本当に豊かで、宝物がたくさんあると感じています。庄内おばこサワラは、漁師さんたちが大切に育てあげてきたトップブランドです。『マグロのトロにも匹敵する』と豊洲でも高評価を得ており、刺身はもちろん、しゃぶしゃぶや炙り、広範囲に楽しめます。今後はサワラ以外のブランドの取り組みにも力を入れ、全国に庄内浜の素晴らしさを発信していきたいと思っています」
《鼠ヶ関漁港》

 奥州三大古関のひとつ「念珠関」が語源。源義経も平泉へ赴く際にこの地を踏んだとされます。
 「庄内おばこサワラ」は価格が決まっているので競りはありませんが、念珠関地方卸売市場では、その他の魚介類は土曜日を除いて毎日、競りにかけられます。この日は約20社の買受けさんが集まり、17時30分から競りスタート。各々希望のものと個数、希望額を用紙に書き込み、係の人が回収します。すぐに値段と購入者が決定する一発勝負です。

念珠関地方卸売市場内の様子。

撮影=菊池陽一郎 取材=中島宏枝
取材協力=山形県漁協協同組合/念珠関地方卸売市場
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