良い道具は使う人の所作を美しくしてくれる
 普段スタイリストの仕事もしているので、新しい製品や装飾的なグッズと出会う機会も多いのですが、その反動なのか、自分で選ぶものはどんどんシンプルさを追求するようになってきました。和食器が多いのは、日々、和食を作って食べるからという単純な理由です。そして、作り手の高い技術に裏打ちされた機能性が生む、道具としての美しさに惹かれます。
 たとえばすり鉢。びっしりと手彫りされた溝が、ゴマをすったときに香りを引き立てるのはもちろん、とろろがふわりとすれたり、ジャガイモを潰すときも滑らず、使い心地が素晴らしいんです。一見、無骨にも見えますが、食卓にそのまま出しても独特の存在感があります。それから、塩壼。高温で焼き上げられた陶器は、湿気を吸うので塩が固まる心配もなく、指が4本入る使いやすさや、フタを立てかけても滑らない工夫があったりと、細部にわたり使い手の立場が考えられています。白と黒の2色あるので、塩の種類を変えたりしても良いかもしれません。色味や大きさ、フタのつまみなど、ひとつひとつ表情が異なるのは、手づくりゆえの個性です。陶製フライパンは、直火にかけられるのが最大の魅力。慌ただしい朝は、このフライパンで目玉焼とソーセージを焼いてパンを添え、そのまま食卓に器として、が定番。炒め物、煮込み、オーブン料理……アイデア次第で用途が広がります。昔ながらのヒノキのしゃもじは、手になじみ、木の香りや湿度調節で、お米をおいしくしてくれます。ごはんをよそうのはほんの一瞬かもしれませんが、大切にしたい時間ですね。
 職人さんによる手づくりの道具は、生産数が少なくて手に入るまで時間がかかったり、高価なものもあります。でもきちんとしたものは長く使えますし、使い続けることで「育って」いくもの。その経年変化は自分だけの日々の暮らしの印と思うと愛着がわくものです。それに、大切な道具ならそれに見合った立ち居振る舞いが自然と生まれると思うのです。たとえば布巾にしても、お鍋にしても、白いものは汚れが目立つぶん、洗うタイミングに気をつけるようになりますよね。重たい陶器や繊細なガラスジャーも、ていねいに扱おうという気持ちが、その人の所作を美しくしてくれる。良いものは、使い手の心の姿勢をまっすぐ正してくれる力を持っていると思うのです。
まいきょうこ◎料理や暮らしまわりのスタイリスト。雑誌、書籍、カタログ、WEBのスタイリング他、様々な分野のコーディネイトなどを手がけるかたわら、道具好き、器好き、食好きが高じて、東京・西荻窪で食材と道具を取り扱う店「364(さんろくよん)」を2008年にオープン。飽きのこない「良さ」が感じられる、作り手の「モノゴト」を伝え続けている。


撮影=三木麻奈
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