日本のブランド魚では先駆的存在と言える「関あじ・関さば」。1988年頃からその名が知られるようになりましたが、元々は佐賀関で獲れたタイ、ブリ、イサキなどを、県外の消費者が「関モノ」と珍重していたことに由来します。大分県漁協佐賀関支店が本格的に事業化してから現在まで約30年にわたり、鮮度と品質を高く保ち続けている「豊予海峡の関あじ」とは、いったいどのような魚なのでしょうか。


豊予海峡(ほうよかいきょう)

豊後(ぶんご)水道で最も幅が狭まっている佐賀関(大分県)と佐田岬(愛媛県)の間が豊予(ほうよ)海峡。瀬戸内海の水塊と太平洋の水塊がぶつかり、潮流が速いことから別名「速吸瀬戸(はやすいのせと)」とも呼ばれている。

 
関あじを積んだ船が帰港
 現在、大分県漁業協同組合佐賀関支店には、約500名の漁師が所属しています。基本、一人乗り漁船で一本釣りを行っており、関あじ、関さば漁がメインですが、豊かな漁場である豊後水道では、タイ、ブリ、イサキなども水揚げされます。関あじはゴムやビニール、サバの皮などを疑似餌にして、1本の釣り糸に20本程の針を仕掛けます。速吸瀬戸の潮流を船で上り下りしながら糸を流し、指に魚の動きを感じたら引き上げるという手釣り漁です。

この日の朝6時に出港した清伸丸が、11時頃港に戻ってきました。
熟練の技による「面買い」


「いけす付ポンツーン(浮桟橋)」に横付けされた船に買い子が乗り込み、船内のいけすから網で魚をすくいます。

その際、目算で100gごとの重さを見極め、値付けします。これが独自の売買方法である「面買い」です。道具で計ると暴れて傷がついたり、身割れすることがあるので、できるだけ魚を良い状態に保つために編み出されました。値付けされた魚は速やかに「いけす付ポンツーン」に移されます。
 現在、漁協の職員として4名いる買い子の中でも、この道40年の最ベテラン島崎徹さんが、この日の面買いを担当。
筋肉質で身がしまっていることが特徴とされる、関あじらしいアジがあがりました。


目利きの買い子 島崎 徹さん

アジをクールダウンさせる

釣ったばかりの魚は極度の興奮状態にあるため、1〜3日程度、いけすで落ち着かせます(写真6)。沈静化した状態で活けじめにする方が、美味とされているからです。アジやサバは本来、10qくらいの距離を移動する回遊魚ですが、関あじ・関さばの多くは、1ヶ所の瀬に居つく「瀬付き魚」です。その理由はいくつかありますが、@佐賀関沖の水温が他の水域と比べて、夏冷たく、冬暖かく、一年を通じて変化が少ないこと。A速吸瀬戸の海底には、すり鉢状の大きな瀬が二つある他、起伏に富んでいるため、十分な運動ができること。B一年を通じて餌が豊富なこと、などが挙げられます。
手間をかけた活けじめ作業
出荷作業は夜中12時頃から朝方まで行われます。その日出荷するアジを、いけすからスポンジマットへ移し、包丁で素早く脊髄を切断します。

血を抜き、氷水で冷やした後、針金で一匹一匹、神経抜きを施しています。こうすることで魚の鮮度が保たれます。この日一人で神経抜きの作業にあたっていたのは、職員の水野清一郎さん。多いときは1500匹もの関あじを出荷するそうです。


神経抜きの職人 水野清一郎さん

徹底したブランド管理


活けじめされたアジは、荷捌き台に置かれ、そのまま選別機に移されます。


コンベアーのような選別機は、アジを200g以下、200〜250g、250〜300g、300〜400g、それ以上100gごとの水槽にそれぞれ峻別していきます。


1箱あたりの重量を均一にし(だいたい3.8s程度)、関あじブランドのタグシールを付ければ出荷準備はほぼ完了。その上にパーチという専用のビニールをかけ、海水を水で薄めて凍らせた氷を入れます。
例えば1箱に3匹の関あじが入っていれば、1匹あたり約1200gの大物ということになります。6月頃から旬を迎えてますます美味しくなる関あじには、こうした1s以上の見事なものが多くなります。


箱詰めされた関あじは、リフトでコンテナへ積まれ(写真16)、ここから全国の各市場へ直接トラックで運ばれていきます。朝8時頃出荷した場合、福岡市内なら昼頃、東京の取引き先へも夕方頃には届きます。
トップブランドたる理由


豊予海峡が恵まれた漁場であることはもちろん、佐賀関伝来の一本手釣りをする漁師さん、魚を傷つけないための面買いをする買い子さん、一匹ずつ手作業で行なう活けじめの職員さん。熟練の人の手から手、丁寧な仕事から仕事へのバトンタッチにより、「豊予海峡の関あじ」の鮮度と品質は保たれているのです。

今回お話をしてくださった佐賀関支店の須川直樹さん(右)と高瀬大輔さん(左)

撮影=菊池陽一郎 取材=中島宏枝
取材協力・写真提供=大分県漁業協同組合佐賀関支店
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