四国最大の都市・松山から車で約2時間下ると、美しい宇和海を望む南予の中心都市宇和島に到着します。温暖な気候に恵まれたこの地には、独自の伝統や文化が受け継がれてきました。
なかでも闘牛は有名で、JR予讃線の終着駅・宇和島駅前には雄々しい闘牛の銅像があります。リアス海岸によって深い入江を持ち、大きな台風やシケの影響を受けないこの宇和海は、真珠や魚の養殖に最適な環境を有しています。この海では数年前から、伊予柑の風味のするタイ「みかん鯛」が育てられています。みかんを食べるタイとは、どんな魚なのでしょうか!

タイとみかんの生産は全国有数

 「マダイの水揚げ量全国第1位」は何県かご存知でしょうか? また「柑橘の生産量全国第1位」は? 正解はともに愛媛県。そのことに着目した宇和島の水産会社・宇和島プロジェクトと中田水産が、伊予柑の皮をエサに混ぜて養殖マダイに与え育てた「みかん鯛」の販売を開始したのが2013年4月のことでした。
 「ほんのりと柑橘の味と香りがする」「生臭さがなくて食べやすい」など、消費者からの評判も方々で聞かれるようになり、現在約10万尾(年間)を出荷、県外の飲食店や鮮魚店でも扱う店が増えています。
 愛媛では以前から、みかんジュースの搾りかすのリユースが模索されていました。宇和島プロジェクトはまず、地元の飲料メーカーから提供を受けた伊予柑の皮をエサに混ぜて養殖した「みかんブリ」に着手、2012年に販売を開始し現在約8万尾(年間)を出荷しています。

柑橘が生む第2、第3の効果

 柑橘類をエサに混ぜ込んで与える「フルーツ魚」が人気の理由は、味や香り以外にもあります。柑橘の皮に含まれる物質リモネンは、魚特有の生臭さを和らげます。さらに抗酸化作用の働きのあるポリフェノールやクエン酸が魚の変色や傷みを抑える効果を持つので、鮮魚店や飲食店にとってもたいへん扱いやすい食材となるのです。
 魚が苦手という人から、「これなら食べられる。一切れ二切れではなく、サクごと食べてしまった」という嬉しい感想も届くそう。顔をほころばせてそう語るのは、宇和島プロジェクト経営管理部次長の才木康司さん。才木さんは、養殖魚の新たな領域にチャレンジし続ける仕掛け人でもあります。

規則正しい作業現場

 取材の日は、手足もかじかむほど冷える朝6時頃から中田水産社長の中田力夫さん率いる漁船に6人の従業員が乗り込み、岸から50mほどの場所に浮かぶ曳航生簀を一つ、港に引き入れ作業開始。この日の「みかん鯛」の出荷数は400尾。約1万尾が泳ぐ生簀から、2人が網で魚をすくい作業台の上に置き、次の2人が包丁で生き〆にし、さらに次の2人が魚の脳天から針金を通し神経〆をします。のです。

 最後に中田さんが「みかん鯛」のタグをエラに刺しカゴに収め、コンベアーで計量所へ。計測された魚は氷水に漬け込まれ、その後出荷。早ければその日のうちに発注者の元に届きます。こうしたスピーディーな流れ作業が、新鮮な魚を消費者の食卓に運ぶことを可能にしているのです。







こんな変わり種も!!

 他に宇和島プロジェクトと中田水産が手掛けるのは、みかんを食べて育った「みかんブリ」「宇和島サーモン」「チョコブリ」「ポリフェノールショコラブリ」。後者2つは人間用のチョコレートをエサに混ぜて与えた養殖ブリ。チョコレートの味はしないが、カカオに含まれるポリフェノールの抗酸化作用が、魚の鮮度劣化を遅らせ、特に血合いの変色を抑える。「いちご鯛」にも挑戦している。

試行錯誤を経て今がある

 「みかん鯛」は県外で孵化させたマダイの稚魚を、6月と12月に新たな生簀へ入れるところからスタートします。そこから1〜2sに成長させ、出荷するまで2年〜2年半。エサには3段階あり、出荷前の3〜6ヶ月の間にみかんを混ぜたエサを与えます。
 「夏は食欲旺盛でも冬はあまり食べなくなるので、出荷時期によってエサの配合や量は変えるんです。また海水温の変化を読みながら、季節によって生簀を移動させます。様々な試行錯誤を繰り返し、ここ数年で品質、量、価格等を安定供給できるようになりました。岸から数メートル先はもう水深30mというこの自然条件は養殖には最適で、すぐ近くで生簀の管理ができるという何よりの強みがあるんです」と才木さんは説明します。


魚の味が決まるエサ

 「みかん鯛」の強みは他にも。中田水産自ら養殖場のすぐ目の前でエサをつくっていることです。出荷前のエサの配合は、魚粉・小麦などの穀類・ビタミン等の栄養剤を混ぜたマッシュが50%、イワシ・サバなどの青魚を冷凍した生エサが50%、そこに冷凍したみかんの皮5〜10%程度、そしてリモネン成分が十分に含まれた伊予柑オイルを少し加えます。






 冷凍の生エサとミカンの皮を機械で砕き、ペレットと撹拌させることで半生固形のエサが出来ます。小さなコルクのように型抜きされたエサは、そのまま「みかん鯛」のいる生簀へ。原材料が明瞭で安心です。


今回お話をしてくださった中田力夫さん(左)と才木康司さん(右)

「私達は世界に誇れる魚を、自信を持ってつくっています。養殖魚は、食べ物の安全やSDGs、フードロスなど様々な課題を少しでも解決することにも繋がっているんです。一人でも多くの方に、この美味しいみかん鯛を召し上がっていただければ嬉しいです」と中田さんはにこやかに語っていた。


1985年に開園した南楽園は総面積153.322uを誇る四国最大規模の日本庭園。造園設計したのは、北の丸公園池など日本各地の造園を手掛けた伊藤邦衛。南楽園は周囲の海や緑豊かな山々を借景に取り入れた、池泉回遊式日本庭園で、「山、里、町、海」4つの融和を基調としている。春はサクラ、ツツジ、フジ、ハナショウブ、夏はフヨウ、サルスベリ、秋は彼岸花、モミジ、冬はツバキ、梅など、四季折々の草花が、馥郁たる香りで来る者を迎える。園内の食事処で季節のお料理をいただきながら絶景を楽しむのもよし、ゆっくり歩きながら間近に草花を愛でるのもよし。季節ごとの趣向を凝らしたイベントやライトアップ情報も、ぜひ事前にチェックしてから出かけたい。

所在地:愛媛県宇和島市津島町近家甲1813 пF0895-32-3344
開園時間:9:00〜17:00 休園期間:12月29日〜1月1日
料金:大人310円 小学生150円 65歳以上150円
*ガイド無料、飲食持込可、他割引あり
WEB site:南楽園

撮影=行竹亮太 取材=中島宏枝
取材協力=(株)宇和島プロジェクト、(有)中田水産、南レク株式会社

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