魚にかぎって言うと、ごはんのおかずにおいしいものは、たいてい日本酒の肴にもおいしい。原料が同じ米だからか。
その代表がお刺身。マグロの刺身なんて、酒にももちろんいいが、わさび醤油をつけて白いごはんにのせて食べたらタマラン。
カツオも、ネギ・玉ねぎ・シソ・ミョウガなど微塵に切った薬味を
ふりかけ、ちょいとニンニクを効かせたポン酢で、わしゃっとばかりに食べると、これまた酒もグイグイすすみ、めしもバクバクいける。酒によしめしによし。島国日本。
焼き魚も同じ。サンマの塩焼き。焼きたてを箸でほぐして、冷たい大根おろし醤油のっけて、熱いごはんにどうだ。だが、褐色のワタのところ、あそこは酒に限る。
サバ塩焼きもうまい。カレイもいい。川魚だってアユがいるし、イワナがいる。焼く前に天日に干す知恵も、人間は授かった。
煮魚も、酒にもめしにも同等によい。
だけど、こと「照り焼き」となると、事情が違う。とくにブリの照り焼き。これは絶対に、ごはんだ。シロメシにブリテリ。無敵のコンビ。
この時ばかりは出しゃばる酒を「こら!横に控えておれ!」とピシリとたしなめ、照り焼きの皿の前にごはん茶碗を持ってくる。ブリとコメ、一対一の真っ向勝負だ。
厚みのあるブリの切り身が、醤油とみりんと砂糖で照り焼きされ、濃い飴色に色づいている。それを箸で大胆にごそりと切り崩し飯にのせ、それごと口に運び入れる。うまい。ブリがうまい。コメがうまい。それが口の中で、いずれが勝ることなく、ひとつの美しい和音で旋律を奏でる。
これを何口か食べると、照り焼きの甘さか、お新香がひと切れ欲しくなる。キュウリのぬか漬けでもいい、白菜でもいい。ちょいとつまんで食べる。このお新香が、いつものお新香とは別格においしくなる。そしてまた、ブリメシに戻る。口に頬張ると喜びが新たになる。
「ああ、本当にうまい」とあらためて呟くと、味噌汁がひとくち、啜りたくなる。具はネギと豆腐でもなんでもいい。ただし具沢山はダメ。脇役なので。この具少ない脇役汁のひと啜りが、ブリメシの合間に、これまた染み透るようにおいしい不思議。
そうやって、ブリの照り焼きで、ごはんを二膳、食べる。晩酌の主役を張る純米吟醸酒も、この時ばかりは最後まで出幕なし。
ブリの照り焼き、庶民の普通の家庭料理だが、ごはんも脇役も輝かす、美丈夫です。