献立はだいたい買い物に行ったときや、冷蔵庫の中身と相談しながら決めるけど、「今日はお魚が食べたいな」って日はあるわね。年齢を重ねると、魚介の頻度が増えてくるかな。だってヴァリエーションがすごいじゃない。白身、赤味、青魚、甲殻類、貝類があって、青魚でもサバ、アジ、イワシは味がそれぞれ違うし。新鮮ならお醤油でお刺身。それだけで御馳走になる。もちろん焼いても揚げても煮てもまた美味しい。キッチンをリフォームしたとき、魚の処理がしやすいように洗い場の一部をナナメにしたので楽チンなんです。
 むかしテレビの仕事で九州の漁港に行ったの。そしたら魚の目がみんなギョロッと開いている。「さすがここの魚は新鮮だから目が開いているんですね」って言ったらさ、漁師さんが「魚は目をつぶらないよ」って。たしかにそうだ。私の目から鱗が剥がれました。
 やっぱり魚を買うときは目をじっくり見ますね。濁っていないか、張りがあるか。断然、“死にたて”(って言っていいか分からないけど)の魚は目が澄んでいる。以前、ある店先で、魚の切り身を見ていた男の子が、一緒にいたお父さんに「このお魚、目がないよ。尻尾もないよ」と言っていたの。それに対してお父さんは無言。ダメよねえ。「魚屋さんが食べよく切ったからないんだよ。もともとは目も尻尾も背びれもあるんだよ」って教えないと。
 魚って食育には最良の食品だと思いますよ。一尾そのままお皿に上がれば、命をいただく尊さが感じられるし、子どもは子どもなりに一生懸命食べるから、お箸の持ち方も上手になるのよね。和田家では骨も無駄にしないの。焼いた魚をフードプロセッサーで砕いて、胡麻や鰹節なんかと混ぜると、カルシウムがたっぷりのふりかけができる。うちの息子や孫たちもこれで育ちましたよ。次男の嫁のあーちゃん(和田明日香さん)は嫁いできたときは魚をさばくのをこわがってたけど、今ではもう立派にカツオやブリもさばくし、頼りがいがあります。孫たちはその様子を面白そうに見ているのよね。
 これから冬場は脂がのって、いっそう魚が美味しくなりますよね。一昔前は魚屋さんの前を通ると「らっしゃい、らっしゃい、脂がのってるよ!」なんて威勢のいい声が聞こえたものよ。みんなプライドを持っていたから。プライドといえばトルコ旅行をしたとき、イスタンブール名物の鯖サンドを楽しみにしていたんだけど、通訳の男性が「今の時期の鯖は新鮮じゃないからやめた方がいいよ」って頑なに言うから、とうとう食べられなかったのよー。その人は某首相の通訳なんかもやったという人で、良い状態で食べさせたいという彼なりの配慮があったんだろうけどさ……。ものすごく残念だったから、現地で料理本を買ってね、日本に帰ってから自分で作ったの、鯖サンド。これがなかなかよくできて、その後我が家の定番レシピになりました。

ひらのれみ◎本名は和田れみ。料理愛好家、シャンソン歌手/東京生まれ、千葉県松戸市で育つ。主婦として家庭料理を作り続けた経験を活かし、「料理愛好家」として活躍。“シェフ料理”ではなく、“シュフ料理”をモットーに明るく飾らないキャラクターから、『きょうの料理』『平野レミの早わざレシピシリーズ』(NHK)ほか、様々な料理番組や雑誌やラジオで活躍。また、特産物を使った料理で全国の町おこしなどにも参加し、好評を得る。「レミパン」などのキッチングッズの開発も行う。著書も多く出版。
公式サイトremy
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Interviewer:Hiroe Nakajima Photo:Miyoko Tamai  Illustration:Luu Ueno
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