海辺生まれの、海育ちで、子どもの頃から魚に御縁がありました。
 郷里の富山県はとても良い漁場で、特に春はホタルイカが有名です。家の裏の海にバケツを下して引き上げると、昔は誰でも簡単にホタルイカを捕ることができました。まるで宝石が海の底から揚がってくるような美しさです。運動会ではホタルイカ音頭を踊ったことも記憶しています。その他にも地元はキトキト(新鮮)な魚が豊富でした。
 ですが子どもの頃は魚が大嫌いでした。家でも学校でも、とにかく魚ばかりなんですから。母が「今日は魚」というと、酢の物、焼き魚、昆布締め、味噌汁、食卓は魚一色。一人っ子でワガママに育ったということもあって、よく文句を言っていたと思います。
 給食に出てくる魚も苦手で、「お腹が痛い」と早退したこともあります。ただ甲殻類は大好きでしたから、冬場にカニが出るのは嬉しかったですね。今も地元では、生徒に1杯ずつカニが供される“カニの日”があるんです。私が小さい頃にも、同級生の漁師の子の家では、庭に敷いたゴザの上で茹でたての紅ズワイガニをおやつに食べさせてもらったりしていました。考えてみると贅沢ですね。
 改めて魚の大切さに気がついたのは、大学で東京に移ってからです。スーパーや居酒屋でペラペラの乾いた魚を目にするたびに、故郷の魚の優秀さを思い知らされました。「海が足りない!」と感じていた30代の頃、友人に釣りに誘われたのをきっかけに、1級小型船舶の免許を取りました。6人1組で行なった最後の実地試験では、私以外はみな自衛官だったことを今でもよく覚えています。
 その後、クルーザーを購入して、休みの度に千葉沖や伊豆七島に繰り出しました。日焼けも構わず乗り廻っていたら、ある撮影でメイクさんから、「室井さん、顔から塩が吹いてますけど……」と言われたこともありましたっけ。事務所の社長に怒られたので、夜釣りならいいだろうと、北海道のイカ釣り漁に出掛けたら、今度は集魚灯の灯りで顔が焼けてしまって。結局ばれてまた叱られました……。
 もう、何年も船を操縦していないので、「海に戻ることはないだろう」と感じています。
 日本酒が好きなので、肴はやはり魚。たまに作るのは、ブリの柵をサイコロ状に刻み、大根おろし、ワケギなどの薬味を乗せ、ポン酢やお醤油でいただくミゾレ風。カボスやスダチがあれば言うことなし。脂の乗ったブリをさっぱりいただけて、酒のアテにぴったりです。
 子どもの頃は魚嫌いで避けていたとはいえ、どうしたって私の体にはたくさんの魚が入っているんだと思います。すり身だとか、出汁だとか、目に見えなくても随分と摂取している。これまで捻挫や骨折をしたことがないのは、魚のおかげで骨が丈夫なせいもあると思います。知らないうちに蓄積された魚の力に、感謝。

むろいしげる◎女優・エッセイスト/富山県生まれ。早大在学中より映画に出演以降、多くの映画賞や芸能賞を受賞。2022年映画「七人の秘書THE MOVIE」に出演。また、新刊絵本『タオルちゃん』(金の星社)、『しげちゃんのはつこい』(金の星社)、『会いたくて会いたくて』(小学館)他電子書籍化含め著書多数。全国各地でしげちゃん一座絵本ライブを開催中。
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Interviewer:Hiroe Nakajima  Illustration:Marine´é Isono
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