神奈川県三浦にある間口漁港は「松輪のキンメダイ」 の水揚げ地です。春〜夏場はより脂ののった キンメダイが揚がることで知られています。 この漁港では、魚をいち早く消費者へ届けるための 驚くべきスピード作業が行われていました。
松輪のキンメダイとは

  三浦半島の南東端にある剱崎の岬を挟んで、東側が間口漁港、西側が江奈漁港。この二つが「みうら漁協」の「松輪支所」で、「松輪のキンメダイ」の漁獲の中心となっているのが間口漁港です
 「松輪」の由来は三浦市南下浦町松輪の地名から。剱崎沖の海底には「松輪瀬」という瀬(海底の起伏。根とも呼ぶ)があり、多くの魚が居ついています。松輪支所では他にもサバ、メダイ、クロムツ、アジ、サワラ、サヨリ、ヤリイカ、アワビ、サザエ、ナマコ、メカブ、ワカメなど多種多様な海産物が水揚げされます。
  特に冬場は松輪サバ、夏場はキンメがシーズンということで、間口漁港へ松輪のキンメダイを見に行ってきました。


沖キンメを求めて
 剱崎灯台(写真・上)を臨む間口漁港には、現在約60隻の漁船が所属しています(写真・左下)。そのうちの3、4隻が三宅島や八丈島、時には須美寿島あたりまで行く10tクラスの船で、今回帰港した加山順一船長の加山丸はその1隻です(写真・右下)。
  よくキンメダイには「地キンメ」「島キンメ」「沖キンメ」の3種類があると言われており、沖に行くほど大きく重量のあるキンメダイが獲れます。


加山順一船長の加山丸
 今回は3泊4日の漁となり、全部で800sのキンメダイが水揚げされました。加山丸では獲れたキンメダイを、海水を用いた電解殺菌水の氷水につけこみ、急速冷却します。死後すぐに硬直させることで、港まで鮮度を保ったまま運ばれます(写真/下左右)。
底たてはえなわ漁法
 キンメダイは水深300〜500mの岩礁域に生息する深海魚です。生きている時は背だけが赤く、他は銀色をしていますが、死ぬことで全体的に赤くなります。
 元漁師の草間学さんと漁師の鈴木雄一さんによれば、漁法は昔も今も「底たてはえなわ」が用いられています。これは縦の幹糸に、30〜50本ほどの枝糸をつけたもので、枝糸の先の針には鮭の皮やイカなどのエサが仕掛けられています(図・左)。レーダーで群れの反応をみつつ、潮の上方から糸を流し、30〜60分したところで、ドラムロールで一気に巻き上げます。これを夜明けから夕方まで何度も繰り返し行います。
間口漁港の特徴
 間口漁港は他の漁港と違い、セリや入札がなく、現場責任者の判断による相対出荷が中心となります。各船一隻ずつの水揚げ後、その場ですぐに箱詰めが行われるため、超鮮度商品の出荷が可能です。また、漁業関係者の高齢化が進む中で、若い漁業者が育っている点も特徴的です。
 荷捌き台に移されたキンメダイ(写真・上)は計量され、次々と「特々=1・4s〜2s以上」「丸特=1・2s〜1・4s未満」「特大=1s〜1・2s未満」「大=800g〜1s未満」「中=600g〜800g未満」「キンメ=400g〜600g未満」「小=300g〜400g未満」「小々=200g〜300g未満」の8つに分別されます(写真・左上)。
 また針の混入や形崩れがないかなどの最終的な検品もこの時に行われます。
鮮度の良さは一目瞭然
 抜群の鮮度の良さは、目の周辺が緩んでおらず(写真・右上)尻尾のあたりを持った時に、ピンと立つことからもうかがわれます(写真・左下※通常はこのように扱いません)。
 また、保存の際の海水の濃度や温度などによって、キンメダイの赤い色の出方が微妙に変わることがあります。ちなみにキンメダイの雌雄の違いはお腹を開いてみないと分からず、夏はメスが3〜5pくらいの卵を持っていることもあります。その後、1箱ごと約6s〜8sに収まるよう、数量を調整していきます(写真・右下)。
速やかな流れ作業
 3〜4名の作業員の方が、ベルトコンベアーの上に並べた発砲スチロールの箱に、サイズごとに仕分けされたキンメダイを黙々と詰めていきます(写真・上)。箱には鮮度を保つため、マイナス30度の倉庫でつくられた電解殺菌水の氷も入れられます。  箱の側面には慣れた手つきで、「特々(サイズ)/3入(数)/8・5(総重量)」など、内容が分るよう油性クレヨンで記入されます(写真・左下)。
 箱詰めが終わったものから、納入先別に荷山をつくります(写真・右下)。ちなみに今回獲れた800sのキンメダイのうち、中島水産には6・5s×50箱=325sが届けられることになりました。関東を中心に出荷され、早ければ翌日の夕方には店頭に並びます。
豊かな東京湾の出入口

このほかに高知など。

 キンメダイの水揚げ地は、太平洋側に多く点在しています(図・左)。間口漁港はプランクトンの多い東京湾の出入口に位置しているため、先ほども述べたように、豊富な種類の魚介類が水揚げされます。鮮度の高い品物を食卓に届けることにこだわったみうら漁協の方々の取り組みは、今後も続くことでしょう(写真・下)


(左から)今回取材に応じてくださったみうら漁協間口販売所長の田中尚勝さん、職員の勝俣貴吉さん)によれば、例えば同じクロムツでも、松輪のクロムツは味が濃いという評判もあるそうです。




撮影=菊池陽一郎 取材協力=みうら漁業協同組合南下浦支所/株式会社横須賀魚市場
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