国内で最も朝鮮半島に近いという地理的条件から、古来より大陸からの文化を日本に伝える窓口であった対馬。島には歴史的価値の高い書物、仏像、遺跡、古墳などが点在する一方、周囲を海に囲まれた世界有数の好漁場でもあります。中でも黒潮の栄養素豊富な対馬暖流では、大きく脂のりの良い穴子が育ちます。その美味しさの理由を探ってきました。

良い条件が重なる島

 福岡空港から約30分で渡ることができる対馬は、南北82 km、東西18 kmの細長い島です。中央部には入江に富む浅茅湾があり、海岸線は約1kmに及びます。島の周辺には天然の岩礁が広がり、対馬暖流と大陸沿岸水が交錯することから、好漁場が形成されています。
 引き網漁ではタチウオ、ヨコワ、ブリ、はえ縄漁ではタイ、ブリ、アカムツ、浮はえ縄漁ではマグロといった海の幸が豊富に揚がります。
 穴子は対馬の東西に多く生息していますが、西海域は、カニ、エビ、イワシなどを食べている大きく脂のりの良い穴子が捕獲できます。それゆえ、対馬の穴子は食感や旨みに定評があり、高級ブランド魚として首都圏や関西圏の食通たちを唸らせてきました。
 金穴子を扱う対馬水産管理部の田中洋平さんによれば、「対馬の穴子は6月から11月頃にかけて最も脂が乗り、1s近いサイズになるものもあります」とのことです。

ストレスフリーの状態

 生態については謎も多い穴子は、現在も鰻ほど養殖が進んでいません。水深130m〜200mあたりで活動するとされ、狭い穴を好む習性を利用して、対馬ではかご漁を採用しています。刻んだイカの餌を仕掛けたかごを海底に沈め、4〜5時間待ちます。かごに入った穴子は漁船に引き上げられると、船の水槽に移され港に帰ってきます。ひとかごずつ丁寧に穴子を取り出すので、魚体が傷つかず、生きたまま水揚げされます。
 また、かごには1〜1.5 cmの穴が開けられており、稚魚はそこを通れるようになっていることから、乱獲を回避し、水産資源の保全に配慮しています。
 取材の日、港から船で3〜4時間進んだ対馬西域で3泊4日の穴子漁を終え、美津島町久須保の港に戻ってきた船は4艘。船内の生け簀から、よく太った穴子が次々と引きあげられます。



かご漁の仕掛けを見せてくれた築城悟さん





1艘の船には1,000〜1,300のかごが積まれている

 昨年の対馬産穴子の全漁獲量の内、半分以上を取り扱う水産物仲卸会社ダイケーの職員たちが、港に接する敷地の屋内水槽に、水揚げされた穴子を移します。
「水槽内では酸素の供給、ろ過、水流や水温などの細やかな調整を行い、なるべく自然の海水の状態を保ちながら、泥や餌を吐かせて、最速で翌日には出荷できる状態にしています。漁、水揚げ、保管、出荷までのスピーディーな連携により、穴子にストレスをかけず、新鮮な状態で食卓に届けることが可能になっています」とダイケーの取締役・山田泰三さんは言います。


 稚魚から最初の1年は港から船で5分程の金重島の前の生簀で育てられます。次の2〜3・4年はもう少し沖の浮瀬島前方の生簀へ、そして出荷直前になると港内の通称・前島に移されます 。それ以外の移動をさせないのもストレスを与えないためです。






世界への普及に向けて

 対馬水産では、顧客の注文を受けた必要量だけ、活き〆加工・冷凍して出荷をすることで、鮮度の良い穴子を提供しています。活き〆は生きている魚を一瞬で〆る方法で、長い時間鮮度を保つことが可能となります。魚が暴れると体温が上昇し、乳酸など疲労物質が蓄積されるので、そうならないよう工夫しています。
 一般的には蒲焼きや白焼きなどでいただく機会の多い穴子ですが、鮮度の良い穴子は刺身を堪能することもできます。穴子本来の美味しさに気がついてもらうために、多様な食べ方があることを知ってほしいというのが、田中さんや山田さんの願いです。
「穴子の食文化を日本だけでなく世界中に広めたいと考えており、海外でも安心して食べていただくために、工場の管理体制を刷新し、昨年、EU HACCPやHalalの承認を取得しました。対馬の豊かな海産物を世界中の人々に届けたいと、日々思っています」と田中さんは語ります。

港で神経〆した穴子は直接飲食店などに入る

もっと穴子を身近に

 対馬水産では、甘辛いタレで煮た「煮穴子(冷凍)」と、活き〆・背開きにした「生開き(冷凍)」を自社加工工場で製造し、「対馬金穴子」として主に販売しています。前者は電子レンジか湯煎で温めればそのまま食すことができ、後者は冷蔵庫か流水で解凍すれば(皮側を包丁などでこすり、ぬめりをとるとなお良い)、白焼きはもちろん、天ぷら、ムニエル、アヒージョなど、様々な料理に簡単に利用できます。



「煮穴子」は、一度蒸したものを熱いままパウチに入れ、そこにタレ(無添加の醤油、みりん、酒を使用)を流し込んで真空パックにします。さらに袋のまま90℃の湯で30分煮た後、冷まして冷凍、出荷します。ご飯に乗せればすぐに穴子丼が完成します。







 漁、水揚げ、保存、加工、出荷に至るまで、各現場に携わる人々の技術と努力、そして徹底した品質管理への意識と熱意が、「対馬金穴子」をトップブランドに押し上げ、今後も支えていくことでしょう。

ごちそうになった漁師メシは、獲れたてさばきたての穴子の天ぷら



新鮮な穴子を取り扱っているダイケーの山田泰三さん



お話を伺った対馬水産の田中洋平さん

撮影=白井晴幸 取材=中島宏枝
取材協力=対馬水産株式会社、株式会社ダイケー

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