底辺料理人の私を底上げしてくれるグッズ

 人も情報も味も、何かが何かに似てしまいがちな昨今、「そこにしかない味」に出会ったときの幸福感と刺激は何ものにも代えがたいものです。ミシュランの星がなくても、こなれた店員さんがいなくても「味のある店」を自分の足で見つけると、とても充実感があり自尊心が満たされます。そしてその原体験は小学生の頃に遡ります。
 一方作るのはとても苦手で、「底辺料理記」という連載を行っているほzどです(笑)。幸い周囲に料理家の友人が多いので、良いキッチングッズの情報はしばしば耳に入ります。今回ご紹介した蒸篭やお玉、グレーターなどはみな彼らから教えてもらったものです。食卓にのぼる粉チーズというと、あの市販のお馴染みのデザインの筒のものが想像されますが、実は割高だったり、保存中に品質が落ちたりするので最近は好みのチーズを買ってきてグレーターで削っています。これがことのほか美味しい。
 お玉は実用性の高さというよりも、お鍋のときなどに使うと風情がいいという理由で使っています。蒸篭は本当に便利で愛用しています。いずれも私を底辺から少し救ってくれる道具たちです。
 また、ウー・ウェンさんの本は以前から愛読していますが、本書は料理の「いろは」が実に簡潔に、論理的にひも解かれていて、腑に落ちる記述がたくさん登場します。「もやし炒めは忙しいときに作ってはいけない」という言葉の裏側にも揺るぎない根拠があります。
 また、日本の魚介が美味しいことにも科学的な理由があるということを、最近地質学の先生との対談を通じて知りました。海の食材は和食の軸ですね。例えばお寿司のような小さな世界にも、あらゆる旨味と技が詰まっている。お寿司は世にも類まれな食べ物だと思います。
 年々日本の漁獲量が減っているという寂しい話も聞きますが、上手に自然とのバランスを取りながら、これからも海の恵みを享受していくことができれば嬉しいと思うのです。

ひらのさきこ◎1991年福岡県生まれ。小学生から食日記をつけ続け、大学在学中に日々の食生活を綴ったブログが話題となり文筆活動を開始。雑誌等で多数連載を持つほか、菓子ブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」のプロデュースなど食を中心とした活動は多岐に亘る。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。最新作『味な店 完全版』(マガジンハウス)。
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撮影=三木麻奈 取材=中島宏枝
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