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「海のミルク」といわれる栄養価の高い牡蠣は、様々な料理に活用でき、私たちの食卓を豊かにしてくれます。牡蠣の産地は全国に点在し、特に養殖牡蠣においては60%の生産量を占める広島産が有名ですが、兵庫県相生市で養殖される「一年珠かき」は、他にはない品質や味を誇ります。揖保川と千種川が注ぐ相生湾の穏やかな海で育つ「一年珠かき」が特別な理由を探ってきました。
そうめんで有名な揖保川と、名水百選の千種川に東西を挟まれた相生市は、人口約2万8千人の小都市です。瀬戸内海でも有数の深い入り江である相生湾は、万葉の時代にも歌われた景勝地で、養殖筏が連なる水面は陽光を受けると美しくきらめきます。
「牡蠣は森が育てる」という言葉がありますが、それは牡蠣のエサとなる海中の植物プランクトンの存在が、清冽な河川、ひいては豊かな森をなくしては維持されないことに由来しています。
相生湾に注ぐふたつの清澄な川の源流には原生林がひろがる森があり、しかも絶好の潮流と地形のおかげで、プランクトンが外洋に流れ出ることなく、そのまま牡蠣の栄養となります。そのため、他の産地では2〜3年を要するところ、1年で成長し、フレッシュなまま出荷することができるのが「一年珠かき」の特徴です。
冬場に旬を迎える「一年珠かき」の出荷作業は通常10月半ば頃から始まります。最初は「早珠」と呼ばれ12g程度ですが、12〜1月頃になると20g程度の「新珠」、さらに2〜4月頃には30gを超え、身だけでも10cm以上の「大珠」になるものがあります。
グリコーゲン、タウリン、亜鉛、アミノ酸、カルシウムなどのビタミン、ミネラルを豊富に含んだ「一年珠かき」はふっくらとして身が白く、口に含んだときのほのかな甘みと、爽やかな磯の香りが品質の良さを物語っています。
「一年珠かき」が早く大きくなるのは、養殖の仕方にも理由があります。他の地域では、漁師一人が有することができる筏は100〜200枚といったケースも多くあります。ですがここでは一人につき6枚まで。自ずと全体量が変わってきます。その過密でないことが、牡蠣にとっては好都合で、ライバルがいない分、たくさんのエサを摂取でき、成長も早くなります。
父と兄も牡蠣養殖を生業とする漁師の竹内大騎さん・将騎さん兄弟に同行させていただき、牡蠣の様子を見せていただきました。岸から船で5分もいくと横9m×縦25m程の養殖筏に到着します。毎年筏を置く場所はくじで公平に決めるそうです。
錘で固定されている格子状の筏には約900本もの縄が海底に向かって下りていて、それぞれの縄には上から下まで20個程度の牡蠣の塊が連なっています。牡蠣の塊の中心にあるのはホタテ貝です。毎年5月にホタテ板に牡蠣の稚貝を植え付けます。
「筏の上下なら下、内外なら外に位置する牡蠣ほど早く大きくなるのは、エサが豊富であることと、密ではないからでしょう」と竹内大騎さんが説明してくれました。
早いものだと半年程度で出荷可能となる「一年珠かき」ですが、翌年4月頃、最後の出荷が終わると、すべての牡蠣を筏から引き揚げ、海底まで掃除をして再び5月に新たな稚貝を仕込みます。そうすることで清潔な環境が保たれ、良質な牡蠣の育成が持続可能になるのです。
漁を見せてくれた竹内将騎さん(右)、竹内大騎さん(左)
さらに「一年珠かき」が特別であることの裏付けは、徹底した品質管理にあります。水揚げされた牡蠣は、ただちに専門の職人によって殻がむかれます(殻付きで出荷される約20%以外)。サイズ選別の後、同じ敷地内の工場で洗浄、検品、パック、梱包まで進められ、全国各地に出荷されていきます。
また工場内の研究室では、毎日微生物の検査を実施。そもそも河港の人口が少ない清浄な海域なので、微生物やノロウィルスは非常に少ないのですが、もし発見された場合でも、すぐに生産者にたどり着くことができます。
「一年珠かき」は国際的な海のエコラベル「MSC認証」を取得しています。これは「海全体の資源や生態系、それに関わる管理までが審査対象」というハードルの高いもので、2020年時点、国内で取得した企業は5社のみでした。
「MSC認証は多くの人の協力のもと、地域が一帯にならないと取得できません」と話すのは、あけぼの海産の加藤伸子さん。
「水質、水温、潮通り、どれをとっても牡蠣の生育に適している上、漁師さんや我々水産会社が厳しく管理をしています。また、捕れたてを100℃のスチームで蒸し、マイナス40℃で急速冷凍させた『珠せいろ』の出荷は一年中です。蒸すことで旨味成分が大幅にアップした鮮度の良い牡蠣をいつでも楽しんでいただけるので、こちらもお勧めですよ」と同社土井赳人さんは言います。
地理的優位性に加えて、高度なトレサビリティと海の管理を徹底した安心安全な「一年珠かき」は、自然と人間が共につくりあげた「一粒の、総合芸術」と言えるのです。
自の検査機関で徹底した品質管理を行う
お話を伺った土井赳人さん(右)、加藤伸子さん(左)
撮影=行竹亮太 取材=中島宏枝 取材協力=あけぼの海産 |
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