普段の料理をおおらかに受けとめてくれる器

 手仕事による民藝の器のよさを実感したのは、20代後半に大阪で働いていた時のことです。期間限定の赴任でマンスリーマンションに住んでいたのですが、備え付けの食器がとても味気なく感じられて。もともと母が器好きで、実家では作家物の器と一緒に沖縄のやちむんや栃木の益子焼など民藝の器も使っていました。いざ一人で暮らしてみて、改めて民藝の器っていいなあと。食卓に一つ並ぶだけで、忙しい日常の中でもほんの少し豊かな気持ちになれるんですね。それを同世代にも伝えたいと、当時、老舗民藝店がまだやっていなかったウェブショップを起ち上げました。
 民藝の器はシンプルで使いやすい形が多く、家庭料理によく合います。瀬戸本業窯の黄瀬戸や、小代焼ふもと窯の肥後鉢は、使い込むほどに釉薬の表情が変わり、味わいが増す楽しみもあります。古村其飯さんの器のように、釉薬をかけていない焼き締めの器を沖縄では荒焼と言いますが、保温性が高いのも特徴です。龍門司のように縁のある平皿だと、お刺身でも汁けのある煮魚でもきれいに盛り付けられます。
 千葉県船橋出身で、今も船橋市場の近くに住んでいるので、昔も今も魚は身近な食材です。各地に買い付けに行く楽しみの一つが、その土地や季節ならではの海のものを味わうこと。先日も秋に鹿児島で揚がる「秋太郎」というバショウカジキを食べるため、時期を合わせて行きました。
 家にいる時は時間の許す限り、市場で丸のまま買ってきて、さばきます。まずはお刺身。それから子どもが小さいので、骨があまりなく、身が離れやすい背中の後ろの部位は、食べやすいように焼くか、煮るか、蒸すか。アラは、大きい魚ならアラ煮にして、小さい魚ならだしを取って汁物にします。新鮮なら、あまり手をかけなくてもおいしくなるんですよね。だから、よい魚が手に入る店を見つけることが、魚料理が得意になる近道だと思います。

おくむらしのぶ◎1980年千葉県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、放浪ののち、商社で輸入業務、雑貨メーカーで営業・小売店統括を経て独立。2010年、WEBショップ『みんげい おくむら』をオープン。国内外をまわって集めた手仕事の生活道具を提案する。著書に『中国手仕事紀行』(青幻舎)。


撮影=ローラン麻奈 取材=澁川祐子
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